与野党3党修正案に対し真に労働者保護に資する労働者派遣法の早期抜本改正を引き続き求める会長声明

従前から継続審議となっていた労働者派遣法改正法案(以下、「改正法案」という。)につき、今般、与野党3党が大幅な修正をすることを合意し(以下、「修正案」という。)、まもなく国会審議が始まる。その内容は、登録型派遣の原則禁止規定及び製造業派遣の原則禁止規定を削除し検討事項とすること、日雇い派遣の原則禁止を緩和し、禁止対象を30日以内の派遣に限定し、「雇用機会の確保が特に困難な場合等」は政令により禁止の例外とすること、違法派遣があった場合の「みなし雇用制度」の施行までに3年の猶予期間を設けること、というものである。

 

当連合会は、これまで、2008年12月19日付け及び2010年2月19日付け意見書において、労働者派遣法の抜本改正に必要な8項目(派遣対象業務の限定、登録型派遣の禁止、日雇い派遣の全面禁止、直接雇用のみなし規定の創設、均等待遇の義務付け、マージン率の上限規制、グループ内派遣の原則禁止、派遣先特定行為の禁止)を示し、派遣労働者の実態を踏まえて、その雇用と生活の安定のため抜本改正を早急に行うことを強く求めてきた。そして、2010年4月に国会に提出された改正法案については、同年4月14日付けで会長声明を発出し、労働者保護に値する抜本改正にはなおほど遠いことを指摘しその修正を求めてきた。

 

しかしながら、修正案は、改正としてなお不十分である改正法案からも大きく後退したものであり、現行法と比較すれば、派遣労働者保護の目的の明記、「みなし雇用制度」の導入、マージン率の情報公開の義務付けなど改善点はあるものの、次の点で大きな問題があるといわざるを得ない。

 

第1に、登録型派遣は、仕事がある時だけ派遣労働契約を締結するというものであり、派遣先と派遣元との契約に派遣労働者の雇用が左右される不安定雇用を生み出すものであるから、本来禁止されるべきである。

 

第2に、製造業務への派遣は、2008年に職と住居を失った労働者が派遣村に身を寄せる事態となったことからも明らかなように、景気後退期に大量の失業者を生み出すものであるから、直ちに禁止されるべきである。

 

第3に、究極の不安定雇用として社会問題となった日雇い派遣の禁止対象を改正法案以上に限定することは、雇用の安定化策としてなお不十分である。

 

第4に、「みなし雇用制度」は、違法派遣を規制する上で極めて重要であり、この施行を3年間延期することは、施行までの間の違法派遣を容認することにつながりかねず、直ちに施行すべきものである。

 

東日本大震災によって被災地では雇用の場が大きく失われたが、そこでも真っ先に犠牲にされたのは派遣労働者をはじめとする非正規労働者であった。また、被災地以外においても、企業の生産調整や生産拠点の移転等によって、派遣労働者をはじめとする非正規労働者が職を奪われる事態が相次いでいる。東日本大震災からの復興を含め、今、我が国において真に求められていることは、誰もが安心して人間らしく働くことができる社会を築くための労働者保護法の確立であり、雇用保険制度をはじめとする社会保障制度の充実である。

 

労働者派遣法の改正はこのような法制度改正の出発点となるべきものである。今回の修正案は、現行法と比較すれば改善点はあるものの、労働者保護の視点からすれば、改正法案からも大きく後退するものであり、極めて遺憾である。当連合会は、今国会において十分な審議を尽くし、前記の問題点を克服する努力を最大限行うことを求める。その上で、残された課題についても、真に労働者保護に資する労働者派遣法の早期抜本改正を引き続き求めるものである。

 

2011年(平成23年)12月5日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児