「福井女子中学生殺人事件」再審開始決定に関する会長声明

本日、名古屋高等裁判所金沢支部は、いわゆる「福井女子中学生殺人事件」に関する再審請求事件(請求人前川彰司氏)について再審開始の決定をした。



本件は、1986年(昭和61年)3月、福井市内において、女子中学生が殺害された事件である。事件発生1年後に、前川氏が犯人として逮捕されたが、同氏は逮捕以来今日まで一貫して無罪を主張し、同氏と犯行を結び付ける物証は皆無であった。


前川氏が犯人とされた根拠は、別件で勾留中の暴力団員とその関係者の「犯行後に血をつけた前川氏を見た。」とする供述、犯行後に使用したとされる自動車に付着した被害者と同型の血痕、現場に遺留された毛髪の鑑定などであった。しかし、捜査段階で、前記の血痕は被害者のものでないことが判明し、また、第一審の審理の結果、毛髪鑑定は科学的根拠を欠き、前記の毛髪は前川氏のものとは言えないこと、前記関係者らの供述も客観的裏付けを欠いている上、捜査段階で変遷を繰り返しており、到底信用できるものではないことが判明したため、福井地方裁判所は、1990年(平成2年)9月26日、殺人事件につき、無罪の判決をした。



ところが、検察官は、犯人を特定するに足る新たな物的証拠が何らないにもかかわらず控訴を申し立て、名古屋高等裁判所金沢支部は、1995年(平成7年)2月9日、控訴審公判でさらに変遷を重ねた暴力団員とその関係者の供述について、「関係者の供述が大筋で一致すれば足りる」としてその信用性を肯定し、逆転有罪判決(懲役7年)を言い渡した。また、最高裁判所も、1997年(平成9年)11月12日、上告を棄却し、前記の脆弱な証拠構造のまま控訴審判決が確定した。



これに対し、前川氏は、2004年(平成16年)7月、当連合会の支援の下に、名古屋高等裁判所金沢支部に再審請求を申し立てた。



同支部の審理において、弁護人の証拠開示請求に基づき、検察官の抵抗はあったものの、従来、検察や警察の手元に留保されていた解剖時の死体の状況等の写真及び関係者の多数の供述調書などの多数の新証拠が開示された。



解剖時の写真は、法医学者による犯行態様の解明を大きく前進させた。その結果、凶器と認定した2本の包丁では形成不可能な創傷が存在すること、自殺偽装が行われたことをはじめとして、被害者や犯行現場の状況から認められる客観的な犯行態様が、突発的な犯行と認定した確定判決と大きく矛盾することを明らかにした。



また、開示された供述調書は、主要な関係者全員の供述が著しく変遷していることを明らかにした。



本日の開始決定は、客観的証拠を重視し、凶器と認定した2本の包丁では形成不可能な創傷が存在することを認め、犯行に使用されたとされる自動車内から本来あるはずの血痕が発見されていない矛盾を指摘し、現場状況からうかがわれる犯人像が前川氏と著しくかけ離れたものであることなどを認め、さらには、関係者の供述の信用性についても否定するものであって、当連合会は、無罪への第一歩を記した正当なものとして評価する。



本件において重要証拠の開示を拒否し続けた検察官の態度は正義に反するとともに公益の代表者としての公正さを欠くものであり、検察官は「有罪そのものを目的とし、より重い処分の実現自体を成果とみなすがごとき姿勢となってはならない」とされている「検察の理念」と題する検察基本規程に照らしても、誠に遺憾である。   



当連合会は、検察官に対し、本決定について異議申立てを行うことなく、速やかに再審公判への途を開くことを求める。



当連合会は、今後も、再審開始決定が確定し、前川氏が無罪を勝ち取るべく支援を続けるとともに、捜査機関の保有する証拠の全面的開示といった、冤罪を防止するための制度改革を実現するべく全力を尽くす決意である。

 

2011年(平成23年)11月30日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児