オウム事件裁判の終了に関する日弁連コメント

2011年(平成23年)11月21日
日本弁護士連合会

 

本日、オウム真理教幹部であった遠藤誠一被告の上告が棄却され、教団が関わった一連の刑事事件に対する裁判がすべて終了する見通しである。1989年に発生した男性信者殺害事件発生から22年、1995年に発生した地下鉄サリン事件発生から16年が経過するなか、犠牲となった方々とそのご遺族に対し謹んで哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方々とそのご家族に対し心よりお見舞いを申し上げる。


刑事事件のなかには、1989年11月、オウム真理教による被害者救済活動に携わってきた坂本堤弁護士とその妻子が殺害されるという卑劣な業務妨害事件も含まれている。当連合会は、人権救済活動に努めた坂本弁護士の遺志を引き継ぐとともに、弁護士業務妨害対策委員会を設置して坂本事件の教訓を生かす活動に取り組んできた。


また、オウム真理教の破産事件にあたっては、破産管財人弁護士らの尽力により、国の債権を事実上放棄させるいわゆるオウム特例法(オウム真理教に係る破産手続における国の債権に関する特例に関する法律)が成立し、被害者に対し相当額の配当が行われた。破産の配当は被害救済には著しく不足していたが、破産管財人や被害対策弁護団などの尽力により、オウム真理教犯罪被害救済法を成立させて、被害者に対して相当額の補償をすることができた。さらに、残る賠償責任の処理については、オウム真理教犯罪被害者支援機構に引き継がれるなど、今もなお、被害者救済のための活動が続けられている。


一方、刑事事件において起訴された被告人の数は180名を超え、弁護人の多くは国選弁護人として選任された。犠牲者多数の重大犯罪に関する弁護活動であり、弁護人の役割への理解を得ること自体が困難ななか、各弁護人が法に則った適正な審理が行われるよう尽力してきた。


また、オウム真理教そのものについて、破壊活動防止法による団体規制適用が検討された際には、当連合会は、基本的人権を侵害することは明白である旨を指摘してその適用に反対し、最終的に適用は見送られた。さらに、教団の観察と事件再発防止等を目的として、1999年に施行されたいわゆる「団体規制法」(無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律)に対しても、適用要件の不明確性など憲法上の重要な問題点が含まれていることを指摘してきた。


これら弁護士・弁護士会の活動は、基本的人権の擁護と適正手続の保障という憲法上の重要な理念を貫徹するためのものであり、関係した会員各位の尽力に深く敬意を表する次第である。


一連のオウム真理教事件においては、教団がテロ行為に及んだ経緯など解明されなかった部分も多く、同種事件の再発防止のためにも、引き続き真相解明の努力が必要である。一方で、一連の刑事事件においては死刑判決も出されているところであるが、当連合会としては、罪を犯した人の社会復帰の道を完全に閉ざす死刑制度の廃止について全社会的な議論を開始すること、その議論の間、死刑の執行を停止することを今後も求めていくものである。