被災地における義援金等の受領による生活保護打切り問題の是正を求める会長声明

東日本大震災の被災地において、義援金等を収入認定し、生活保護を打ち切る例が相次いだ問題について、当連合会は、本年6月15日付け及び7月22日付けで会長声明を発出し、警鐘を鳴らしてきた。この問題に関して、当連合会は、本年8月から9月にかけて被災5県(青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県)の県及び全福祉事務所に対しアンケート調査を行った結果、次のような事実が判明した。

 

第1に、被災5県全体において、震災後、本年8月1日現在までの間に義援金や仮払補償金等の受領を理由に生活保護が停廃止された全世帯数458件のうち、福島県南相馬市が約51%(233件)を占めており、同市における運用に大きな問題があることが明らかになった。同市では、上記の期間に、生活保護受給世帯数が405件から112件へと約72%も激減しているが、全停廃止世帯数(299件)のうち義援金等の受領を理由とするものが約78%(233件)と際だって多く、受給世帯数の減少に直結している。また、他にも、全停廃世帯数のうち義援金等を理由とする停廃止の割合が大きい地域としては、件数こそ少ないものの、福島県田村市や宮城県多賀城市等がある。これらの市は、こうした運用を直ちに是正するべきである。

 

第2に、本年5月2日付け厚生労働省社会・援護局保護課長通知「東日本大震災による被災者の生活保護の取扱いについて(その3)」(以下、「課長通知」という。)では、第一次義援金等について、使途確認をしない包括的一定額計上による収入認定除外が認められているにもかかわらず、実際に実施している地域は18か所(回答数のうち約19%)にとどまり、課長通知の趣旨が徹底されていないことが明らかとなった。

 

また、収入認定除外を求める自立更生計画書には、被災によって再購入を要する家財道具等のみならず、生業費(免許・資格取得費用等)、教育費(子どもの学用品、塾、部活動費等)、介護費等を計上することが認められており、こうした費用を積み上げれば、容易に、受領した義援金や仮払補償金等の額を上回り得る。しかし、この点を「知らない」又は「説明していない」と回答した地域も少なくなく、「説明した」と回答した58か所の中でも、同計画書に実際に生業費等を計上した実例があるのは約38%(22か所)にとどまる。被保護世帯の自立助長を考慮した実質的な説明と調査がなされているのか疑問が残る。

 

こうした結果からすると、南相馬市に限らず被災地全体において、生活保護法や関連通知の趣旨が徹底されていないといえる。大震災は、平時の社会保障実務の脆弱性をあぶり出すといわれるが、まさしくそうした実態が明らかになったのである。

 

一方で、適切な対応で生活保護の打切りを回避している地域もあり、こうした法の理念に沿う実践例が広く共有されるべく、厚生労働省に対し、全国の福祉事務所に対して改めて通知を発するなどして適切な指導を行うこと、及び、関係自治体に対し、適切な対応を求める。



2011年(平成23年)11月9日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児