電気事業会計規則等の一部を改正する省令(案)に対する意見の募集についての会長談話

資源エネルギー庁が本年8月23日から9月22日まで実施した電気事業会計規則等の一部を改正する省令(案)に対する意見の募集(いわゆる「パブリックコメント」)に対し、当連合会は同月22日付けで意見を提出した。



本規則等の改正は、国民生活及び原発事故被害者に対する損害賠償の枠組みに関する重大な問題を含んでおり、当連合会は、以下に述べる理由により、十分な国民的議論のないままこのような改正を行うことには反対である。



すなわち、この省令案どおり本規則等が改正された場合、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)は福島第一原子力発電所の事故の損害賠償金を営業費用として扱うことが可能となり、現有資産を維持したまま、電気料金値上げによって国民に損害賠償費用の負担を全面的に転嫁することが正当化されることになるが、現時点においてそのような国民的合意があるとは到底いえない。



当連合会は、本年6月17日、「福島第一原子力発電所事故による損害賠償の枠組みについての意見書」を発表し、福島第一原子力発電所事故による損害賠償の枠組みについて、以下の諸点を求めてきた。



(1) 東京電力の現有資産による賠償がまずなされること



(2) その不足する部分については国が上限を定めず援助する法律上の義務があることを原則とすること



(3) 東京電力による損害賠償に対する援助としては、現在計画されているような「資本注入・資金援助」ではなく、国が東京電力の送配電事業(関連知的財産権を含む。)の譲渡を受け、その対価として被災者への損害賠償債務を引き受けることによって行うこと



(4) プルサーマル計画を中止し、再処理等積立金を損害賠償原資として活用すること



(5) 損害賠償額が(3)及び(4)を超えるときは、東京電力が継続して営む原子力発電以外のその他発電事業の収益及び国が買い取った「送配電事業」の収益をもって損害賠償の原資とすること



(6) 資産の散逸を防止し、資産譲渡によって得られた原資を確実に損害賠償債務の弁済に充てることを確保するため、東京電力の法的整理を検討するべきこと



しかるに、東京電力の経営者の経営責任を明確にせず、今回の省令案による規則等の改正によって、送配電事業の売却を含む東京電力の現有資産の売却の可能性が本格的に検討されないままに、電気料金の値上げによる損害賠償費用負担の国民転嫁がなされようとしていることは極めて重大である。


本省令案については国会でも全く議論されておらず、マスコミ報道も十分になされているとはいい難い。そこで、当連合会は、改めて原発事故の損害賠償の枠組みと東京電力の経営責任について注意喚起し、国会などでも広く国民的議論が行われるよう呼びかけるものである。



2011年(平成23年)9月28日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児