原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解仲介手続を全国各地で実施することを求める会長声明

本年8月29日に原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)の事務局である原子力損害賠償紛争和解仲介室が東京・新橋に開所され、9月1日から申立て受付が開始された。そして、本日13日、その福島事務所が郡山市に開所された。



当連合会では、東京を初めとした関東近県の弁護士会の協力を得てセンターに100名以上の和解仲介委員や和解仲介委員を補佐する調査官等を推薦しており、センターでは、東京及び福島事務所が設置される郡山市において和解仲介手続を実施する準備を整えている。



報道によると、東京における受付開始初日に6件の申立てがなされたとのことであり、福島事務所開設にともない、今後多くの被害者がセンターによる和解仲介を利用することが予想される。センターにおいては、実際に事件の仲介を行う和解仲介委員や職員が一丸となって、被害者への迅速かつ適正な賠償を実現するべく、総力を挙げてその対応に取り組んでおり、当連合会はそのようなセンターの努力に敬意を表するとともに、当連合会としても、1人でも多くの被害者がセンターの手続を通じて迅速かつ適切な救済が受けられるよう、全面的に協力する所存である。



一方で、このたびの福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)の被害者は、福島県内のみならず、全国各地に避難しており、現状における対応体制では、不十分であることは否めない。



福島県内に限ってみても、福島県は全国で3番目に面積の広い県であり、必ずしも交通の便がよいとはいえない中で、被害者又は避難者(以下「被害者等」という。)は県内各地に居住又は避難している状況である。多くの被害者等が、本件事故により経済的にも苦境に立たされている中で、被害者等に和解仲介手続のために県内各地から事務所の設置された郡山市まで足を運ばせることは、自らに何の責任もない中、突然このような前例のない大災害に巻き込まれ、これまでの平穏な生活基盤を根底から覆された被害者等に過度の負担を押しつけるものであり、適切ではない。福島県内においても、郡山市以外に、少なくとも、福島市、いわき市、会津若松市、白河市、相馬市及び南相馬市において、和解仲介手続を実施できるよう、制度的、人的及び物的体制を整えるべきである。



また、被害者は全国各地に避難しており、本年8月25日現在の全国の避難者数は、82、945人にも上っている(8月31日付け東日本大震災復興対策本部事務局発表)。これによると、最も避難者が多い都道府県は山形県の11、413人であり、さらに500人以上の避難者がいる都道府県は27にも上っており、そのほとんどが本件事故からの避難者であると推測できる。このような状況からみても、福島県内のみならず、全国各地の避難者にこれ以上の負担をかけることのないよう、でき得る限り、被害者が多く避難している避難先の付近、最低でも多くの避難者がいる都道府県庁所在地において、和解仲介手続を実施できるような体制を整えることが必要である。そのために、当連合会としては、要請があれば、各地の弁護士会において、地元で和解仲介手続を実施するための仲介委員を推薦するなどの協力をしていく所存である。



上記のとおり、本件事故は福島県民には何ら責任のないものであり、このような未曾有の災害の中、福島県内で放射線物質への不安や恐怖に脅えながら生活している被害者又は愛着のある故郷から離れた生活を強いられている避難者が、センターの和解仲介手続を利用して、漏れなく、迅速かつ適正な賠償による救済が受けられるように、被害者等が容易にセンターにアクセスできる体制を確立することが極めて重要である。



当連合会においても、上記のような体制を構築するために、全力で努力する所存であるので、被害者の方々には、お近くの弁護士会に相談の上、センターを積極的に活用されるようお願いしたい。




2011年(平成23年)9月13日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児