東日本大震災から半年の課題に関する会長声明

東日本大震災から今日で半年を迎える。かけがえのない家族等を喪い、生活やコミュニティが破壊され、仕事、生き甲斐を失い、今も故郷に帰れない人々の痛みは筆舌に尽くし難く、わずか半年で癒えるものではない。原発被害は今なお進行中で、被害者の健康や生活を守るためには、多くの人々による支えが求められている。一方で、復興に向けて立ち上がろうとする力強い動きも次々に起こっており、今こそ、こうした動きを支援していくことが必要である。

 

当連合会は、災害発生後、直ちに東日本大震災・原子力発電所事故等対策本部を立ち上げ、一人ひとりの被災者の人権を回復する「人間の復興」が重要であるという観点から、法律相談活動、被災者支援に関する立法提言活動、被災債務(いわゆる二重ローン問題)についての取組、原子力発電所事故に対する様々な提言やADR(原子力損害賠償紛争解決センター)への取組、被災地弁護士会への支援など、様々な被災者支援活動を行ってきた。その概要や成果はpdf別紙(PDFファイル;12KB)のとおりである。

 

一方、こうした活動を通じて、以下のような今後の課題が浮き彫りになっている。

 

第1に、復旧・復興に当たって一人ひとりの人間を救済するという観点を持つことである。東日本大震災復興構想会議の提言や政府の復興基本方針では、この基本視点が欠落している。各地域の復興計画においても、一人ひとりの健康や生活再建について十分な配慮がなされていない。とりわけ、高齢者、障がい者、外国人、子ども及び女性等のいわゆる災害弱者は、復興過程で置き去りにされる危険が高く、特段の配慮が必要である。復興の基本は被災者の人権の回復であり、あらゆる政策において「人間の復興」が実現されることが必要である。

 

第2に、被災債務(いわゆる二重ローン問題)の最終解決である。「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」はこれから運用段階に入る。このガイドラインが、被災者支援の目的を果たせるよう、確実に運用実績を挙げていくことが重要である。また、公的機関による債権買取りは地域の事業再建に不可欠である。既に、参議院では株式会社東日本大震災事業者再生支援機構法案が可決されているが、衆議院での審議はこれからである。与野党間の真摯な協議により、被災事業者等の救済につながる債権買取りの法的スキームが実現することを強く希望する。

 

第3に、原発事故被害については政府の情報開示は極めて不十分であり、対策も後手に回った。政府は事故の早期収束を図り、放射性物質の更なる環境放出を止めるとともに、放射性物質による汚染状況を正確に周知し、これに基づいて徹底した除染を行わなければならない。また、一定地域からの避難については公的支援を行い、自主的避難者に対する損害賠償についても指針を策定し、総合的な健康調査と治療を保障し、汚染土壌などを含む放射性廃棄物対策等を徹底して行うことが必要である。

 

第4に、原発事故被害者の損害賠償請求に対する支援の充実である。原子力損害賠償紛争解決センターは、弁護士等がセンターの運営の中核を担い、他方で和解仲介の申立ての支援にも弁護士が重要な役割を担う。全ての被害者の被害が公正な賠償により迅速に回復されるよう、福島県内だけでなく、全国に避難している被害者に対して全国の弁護士会と連携してきめ細やかに対応し、避難者に寄り添う支援活動を積極的に展開していきたい。

 

第5に、被災者本位の復興まちづくり計画を実現するよう支援することである。各被災地で策定されつつある復興計画の内容は、被災者の意向に沿い、農漁業、地元産業、一人ひとり仕事の回復を期するものでなければならない。過去の災害復興の実情を直視すると、被災者不在、生業支援のない復興計画は、かえって地域復興に暗い影を落とすこととなる。地域の復興は住民主体で進められるべきものであるが、弁護士は、他の専門士業、関係行政機関及びNPO団体などとも連携を図って住民の合意形成のために法律家としての役割を果たさなければならない。

 

新内閣が発足したが、被災地の復旧・復興が最優先の課題であることを肝に銘じ、国会は必要な立法措置を講じ、内閣はこれらの課題を強力に実行するべきである。

 

当連合会は、被災者の生活再建と被災地の復旧・復興のために、引き続き全力で取り組むことを誓う。




2011年(平成23年)9月11日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児