高校授業料無償の維持及び発展を求める会長声明
民主党と自民党・公明党は、2011年(平成23年)8月9日の協議で、震災復興のための特例公債法案を成立させるための条件の一つとして、自民党の主張していた高校授業料無償化法の廃止につき、「高校無償化…の平成24年度以降の制度の在り方については、政策効果の検証を基に、必要な見直しを検討する」旨合意した。
厚生労働省が2011年(平成23年)7月12日に公表した「平成22年国民生活基礎調査」によれば、2009年(平成21年)の子どもの貧困率は15.7%と過去最悪を記録したとのことである。日本社会における貧困化、困窮化が進む中で、子どもの生存と成長が様々な形で阻害され、子どもと親を苦しめている。子ども期の貧困が子どもの社会的自立を妨げ、貧困の世代連鎖を生み貧困を再生産させることは、既に明らかであり、それを防止するための早期の施策が重要であることも明らかである。そして、教育にかける費用の少なさで日本は先進国の最低レベルにある。
これに対する国としての当然の責任を果たすべく、高校授業料無償化法が「家庭の状況にかかわらず全ての意志ある高校生らが安心して勉学に打ち込める社会を作ること」を目的として制定されたものである。
教育の重要性はいうまでもないが、特に高校教育は、社会での自立を前にして、学力のみにとどまらず、人格の発展、他者との関わり合いを学ぶ重要な場であり、また実際にも高校進学率が9割を超え、高校卒業資格なしに就業することの困難さを考えれば、高校授業料の無償化は、社会が子どもに果たすべき責任のうちでも極めて重要なものというべきである。
この無償化法は、かねてから必要性が指摘されてきたが、社会の不況が進んだ2009年度(平成21年度)の卒業予定者の中で授業料滞納のために卒業も危ぶまれるものが続出する状況下で、2010年(平成22年)3月に法制化され、その結果として2010年度(平成22年度)の卒業生や2011年度(平成23年度)の3年生(定時制4年生)の授業料滞納ゆえの高校中退を防ぐことができた。首都圏の定時制高校に通う生徒らが結成した「お金がないと学校にいけないの?」首都圏高校生集会実行委員会が、授業料無償化後に高校生を対象に実施したアンケート調査(2011年(平成23年)7月23日公表)でも、回答数901のうち授業料が不徴収になって「助かった」と回答した生徒が定時制で67.1%、全日制で52.0%に及び、私立高校でも22.5%であったという。同時に上記アンケートは、授業料以外の経済的負担がなお大きく、かえってそれが増加した学校もあり、経済的な理由で不安を抱きながら高校に通っている子どもが4人中3人もいると指摘している。したがって、子どもたちが高校での勉学に意欲を燃やせる環境を作るためには、授業料無償を維持し、かつ授業料以外の経済的負担を軽減することこそが緊急の課題となっている。
頭書の合意は、無償化見直しの条件として、政策効果の検証を挙げているが、いかなる基準で効果を考えるかが問題である。子どもの成長と発達は金銭的効果で容易に計れるものではない。政策効果の検証をするのであれば、専門家による多角的総合的な検証を少なくとも10年単位で行うべきであり、2012年度(平成24年度)以降短期の見直しをするとすれば早計にすぎる。
よって、当連合会は、政府に対し、高校授業料無償化の維持及び授業料以外の経済的負担の軽減を強く求めるものである。
2011年(平成23年)9月2日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児