個人債務者の私的整理に関するガイドラインの適用開始に向けての会長声明

2011年(平成23年)7月15日、個人債務者の私的整理に関するガイドライン研究会(以下「研究会」という。)は、個人債務者の私的整理に関するガイドライン(以下「本ガイドライン」という。)を公表し、本ガイドラインは本年8月22日から適用が開始される予定となっている。



当連合会は、東日本大震災発生直後から、電話相談、避難所相談などを通じて、いわゆる二重ローン問題解決の重要性を認識し、金融機関の被災債務者に対する債務免除を促す政策の必要性を指摘し、具体策として、金融機関が被災者の住宅ローン等の債務を免除した場合の無税償却や債務免除益の非課税、保証債務の免除、債務免除した金融機関への公的資金の注入や債権買取機構による金融機関からの債権の買取り、弁護士会等の審査機関による認定などを提言してきたところである。



これを受けて、政府も本年6月17日に開催された二重債務問題に関する関係閣僚会合で「二重債務問題への対応方針」を公表し、法的整理手続によらない債務免除を促進する個人向けの私的整理ガイドラインを策定する方針を示した。本ガイドラインは、このような政府方針を受けて策定されたものであって、形式的には民間関係者の自主的ルールにすぎず、法的拘束力はないものの、多くの金融・商工団体、法務・会計の専門家、学識経験者等からなる研究会において合意され、全国銀行協会等金融機関の各団体もこの準則に誠実に協力することを約したものであり、その意義は大きい。本ガイドラインによる私的整理は、継続的な収入がある者であっても、債務超過の状態にある者については、清算型の弁済計画もあり得るとされたこと、信用情報が登録されないこと、保証人の債務も原則免除されることなど、被災した債務者の災害からの復興を促進する内容となっている。



当連合会は、多くの弁護士が本ガイドラインに基づく第三者機関のメンバーとなることや私的整理の申立代理人としての活動を通じて、被災債務者の私的整理が迅速・公正・円滑に達成されることにより、被災者が不合理な債務から解放され、被災地が速やかに復興することに寄与したい。



もとより、本ガイドラインは、私的整理の準則にすぎないため、破産状態又はこれに準じる状態の債務者にしか適用がないことから、一定の資産を有する被災者が救済の対象からはずれること、全債権者の同意が必要であること、債権買取りのような金融機関に早期の処理を促す制度がないことなど、当連合会の提言していた立法措置による債務免除の提案と比較すると大きな限界がある。また、被災債務者の居住地の近くで手続ができるか、多重債務の処理との関係をどうするかなど、運用面で改善すべき点も多い。



当連合会は、本ガイドラインに基づく実務に全面的に協力しつつ、この制度が被災者にとって、より使い勝手の良い制度となるよう、改善を求めていくとともに、今後も残された課題の解決のために、被災債務者が不合理な債務から解放される立法等の制定に向けた活動を継続していく所存である。


2011年(平成23年)8月5日

             日本弁護士連合会    

会長 宇都宮 健 児