南相馬市を始めとする被災地における生活保護打切りの是正を求める会長声明

当連合会は、本年6 月1 5 日付けの会長声明で、東日本大震災の被災地において、義援金等を収入認定し、生活保護を打ち切る例が相次いでいることについて警鐘を鳴らし、国に対して、是正指導の徹底を求めたところであるが、その後、福島県南相馬市において、義援金や東京電力の仮払補償金を受けた1 6 8 世帯( 本年6 月2 2 日現在)が生活保護を打ち切られるなど、懸念された動きが拡大している。


しかし、本来、義援金については、厚生事務次官通知( 以下「次官通知」という。) に従い、全額収入認定の対象外とされるべきである。


また、東京電力の仮払補償金についても、別冊問答集の第8 の3 の3 に例示されているものに準じて、全額収入認定除外するか、少なくとも、次官通知の「臨時的に受ける補償金」として、「当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」については収入認定除外されるべきである。


この点、東日本大震災を受けて厚生労働省社会・援護局保護課長が発出した平成2 3 年5 月2 日付け「東日本大震災による被災者の生活保護の取扱いについて( その3 )」( 以下「保護課長通知」という。) は、義援金についても原則として収入認定の対象とする一方、「震災後, 緊急的に配分( 支給)される義援金等については、費目・金額を積み上げずに包括的に一定額を自立更生に充てられるものとして自立更生計画に計上して差し支えないこと。この場合、 使途について確認する必要はないこと。」としている。また、福島県は、平成2 3 年6 月2 0 日付けで社会福祉課長通知( 以下「福島県通知」という。)を発出し、第一次義援金については、「その他生活基盤の整備に必要なもの」として、包括的に自立更生計画に計上し、使途確認も不要であるとしている。


両通知は、被災者の置かれた状況を踏まえ、柔軟な取扱いを指示している点において評価できる面もあるものの、保護課長通知は、上位の次官通知に反して、義援金についても原則として収入認定の対象となるとした点で問題であり、福島県通知は、第一次義援金以外の取扱いについて明記していない点において不十分である。


南相馬市において保護を打ち切られた1 6 8 世帯のうち1 4 4 世帯は、福島第一原発から2 0 から3 0 キロ圏内の世帯であり、同原発災害が一向に収束の気配を見せない現状においては、いつ避難の決断を迫られてもおかしくない。その場合には、相当額の出費が予想されるが、いつどのような出費が必要かについて、現時点において計画など立てられる状況にはない。にもかかわらず、詳細な自立更生計画の提出を求めて生活保護を打ち切り、義援金や仮払補償金を当面の生活費として費消させることは、自らの判断と意思に基づいて放射能被害から避難する自由を被保護世帯から奪うものにほかならず、人道にもとるといわざるを得ない。


以上述べたところからすると、被保護世帯が受領した義援金や仮払補償金については全額収入認定すべきでない。また、仮払補償金について自立更生計画書の提出を求めるとしても、保護課長通知の趣旨を徹底し、その全額を自立更生計画に一括計上して収入認定除外することが必要不可欠である。


当連合会は、南相馬市を始めとする被災自治体が次官通知及び保護課長通知の趣旨を遵守し、人道にかなった運用を行うこと、及び、国が被災自治体に対して適切な指導を行うことを改めて強く求めるものである。





2011年(平成23年)7月22日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児