秘密交通権侵害に対する国家賠償請求訴訟判決に関する会長談話

本年7月1日、福岡高等裁判所は、秘密交通権侵害に対する国家賠償請求訴訟において、検察官が被疑者と弁護人の接見内容を聴取することも許されるとした佐賀地方裁判所平成22年12月17日判決を変更し、検察官の行為が弁護人の秘密交通権を侵害する違法な行為であるとして、国に55万円の支払を命じる判決を言い渡した。



この事件は、佐賀県弁護士会所属の弁護士が担当していた被疑事件につき、弁護人と被疑者との接見内容を検察官が被疑者取調べにおいて聴取し、供述調書化した上、公判において証拠として請求したことが、弁護人の秘密交通権を侵害するとして国家賠償を求めていた事件である。



原審である佐賀地方裁判所の判決では、秘密交通権の権利性を一応は認めたものの、捜査機関の捜査権に優越するものではないとし、検察官が接見内容を聴取することが違法かどうかは「聴取の目的の正当性、聴取の必要性、聴取した接見内容の範囲、聴取態様等諸般の事情を考慮して」判断すべきと判示した上、結論において本件検察官の行為は違法ではないとして、弁護人側の請求を棄却した。しかしながら、捜査機関が、立会人なくして行われる被疑者・被告人と弁護人との接見内容を事後的に聴取することが、双方の情報伝達や援助に萎縮的効果を生じさせるものとして秘密交通権の侵害となることは、鹿児島接見妨害国賠訴訟(志布志選挙違反事件の接見国賠訴訟)でも明確に判示され、上訴されることなく確定している。



今回の福岡高等裁判所判決は、佐賀地方裁判所判決を不服とする弁護人側の控訴に対し、検察官が接見内容を聴取することの違法性について「捜査機関は、刑訴法39条1項の趣旨を尊重し、被疑者等が有効かつ適切な弁護人等の援助を受ける機会を確保するという同項の趣旨を損なうような接見内容の聴取を控えるべき注意義務を負っており、起訴後も、検察官は、被疑者等が有効かつ適切な弁護人等の援助を受ける機会を確保するという同項の趣旨を損なわないようにすべき注意義務を負っている」と判示し、秘密交通権の重要性を再度確認したことは評価できる。



しかしながら、本判決は、検察官の聴取行為の一部についてはその違法性を否定しており、問題を残しているといわざるを得ない。



すなわち、本判決は、相弁護人がマスコミの取材に応じて被疑者の言い分をコメントしたことに関し、国側が秘密交通権の放棄があったとの主張をした点について、弁護人が報道機関に対して被疑者の供述を公表したからといって、その供述過程を含む秘密交通権が放棄されたとは認められないとしつつも、そのような供述を被疑者がした事実自体の秘密性は消失したとして、検察官が被疑者に対し、報道されたような供述を弁護人にした事実の有無やその理由を尋ねたことは違法ではないと判示している。



しかし、本件は、捜査機関側の報道発表により被疑者の言い分と異なる報道がなされており、相弁護人はかかる報道を放置することが被疑者の不利益になると判断し、弁護活動の一環として、被疑者の承諾を得た上で、報道機関の取材に答えたにすぎない。このような経過であるにもかかわらず、秘密性が消失したと認められるとすれば、およそ弁護人は、報道機関はもとより、家族等に対しても、被疑者等との接見内容を伝えることについて、極めて慎重にならざるを得ない。



弁護人と被疑者等との間の秘密交通権の絶対的保障は、被疑者等との信頼関係を確立するためにも不可欠なものであり、被疑者等の防御権を全うし、弁護権を十分に行使するための源泉ともいうべきものである。

当連合会は、これまでも秘密交通権の確立を訴えてきたが、本日の判決を踏まえ、今後とも秘密交通権を守り抜いて行く所存である。



2011年(平成23年)7月4日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児