「警察における取調べの録音・録画の試行の検証について」に関する会長声明

警察庁は、本日、「警察における取調べの録音・録画の試行の検証について」と題して、2009年4月から2011年3月までの2年間における取調べの録音・録画の試行状況について発表した。

それによれば、2年間における全国都道府県警察での取調べの録音・録画の試行の実施件数は717件、被疑者632人であり、試行に従事した取調べ官613人に対する意見聴取結果では、試行による取調べの機能への影響につき、65.8%が「害されないと思う」と回答(「害されると思う」との回答は、14.9%)したのに対し、取調べの全過程を録音・録画することについては、90.9%が「そうするべきではない」と回答(「そうするべきである」との回答は、1.0%)したとされている。


既に検察においては、いわゆる特捜事件につき、取調べの全過程の録画の試行を開始しており、また、知的障がいのためコミュニケーション能力に問題がある被疑者についても、同様の試行が行われる予定である。


これに対し、警察における可視化の試行は、取調べ全過程についてのものではなく、「選定した事件の捜査が一定程度進展した時点で、犯行の概略等について供述調書を作成する場合において、録取内容を被疑者に読み聞かせ、閲覧させ、署名押(指)印を求めている状況を基本としつつ、自己の供述内容に間違いがないこと、任意にした供述であることなどを確認している状況について録音・録画をする」というものであって、取調べのごく一部の録音・録画に過ぎない。


先ごろ再審無罪判決が確定した布川事件確定判決では、裁判所が警察の取調べの最終段階における自白録音テープに大きく影響を受けて自白の任意性を認めてしまっており、一部録音・録画の危険性を端的に示している。


また、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)につき、被疑者と取調べ官との信頼関係が構築できないなどの理由での反対論があるが、抽象的ないわば空中戦に終始してきた。今回の意見聴取結果もかような対立を反映したものと思われるが、全過程の録画の試行をも行った上で、地に足のついた具体的な検証をすべきである。


さらに、試行結果について、今回警察庁内部だけで検討がなされているが、今後は、供述心理学等の専門家や弁護士を含む複数の第三者を交えて、客観的な検証が行われなくてはならない。そして、録画による効果や影響のほか、情報収集に資する取調べの方法の検討がなされるべきである。


取調べの可視化については、本年6月6日の法制審議会において、「新時代の刑事司法制度特別部会」が設置され、取調べの可視化の制度化をすることとされている。その検討の際には、「試行」状況も参考とされることから、同部会での検討に役立てるためにも、警察において、取調べの全過程の録画の試行が多数、積極的に行われることを期待する。




2011年(平成23年)6月30日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児