君が代斉唱時の不起立を理由に戒告処分を受けた都立中学校教諭らの処分取消・国賠請求訴訟の上告棄却判決に対する会長声明

本年6月14日、最高裁判所第三小法廷は、都立中学校の教諭らが、入学式又は卒業式における国歌斉唱の際に起立・斉唱を命ずる校長の職務命令に従わなかったことを理由に東京都教育委員会から戒告処分を受けたため、その職務命令が違憲・違法であるとして戒告処分の取消し等及び国家賠償法に基づく損害賠償を求めた事件の判決において、上記職務命令は憲法19条に違反しないと判示した。

 

去る5月30日の最高裁判所第二小法廷判決及び6月6日の同第一小法廷判決においても同様の事案で合憲判決がなされているが、本判決の多数意見もほとんど同文の判旨で、上記起立・斉唱行為は式典における「慣例上の儀礼的な所作」であるとの形式論と、地方公務員の職務の公共性といった一般論を理由に、思想・良心の自由の制約の必要性と合理性を認めた。

 

しかし、上記第一・第二小法廷判決に対する会長声明で述べたとおり、上記起立・斉唱行為は日の丸・君が代に対する敬意の表明をその不可分の目的とするものであって、職務命令によるその強制はこれらに敬意を表明することが自らの歴史観や世界観に反すると考える者の思想・良心の自由を直接的に侵害するものである(2011年(平成23年)6月3日及び同年6月10日付け会長声明参照)。

 

今回の判決では、5名の裁判官のうち、田原睦夫裁判官が、「斉唱」は積極的に声を出して「唄う」ものであるから式典における儀礼的行為と評価できず、国歌に対して否定的な歴史観や世界観を有する者に対し国歌を「唄う」ことを職務命令をもって強制することは思想、信条に係る内心の核心部分に対する侵害であるとし、「起立命令」についても「斉唱命令」と不可分一体のものと解せられるとして、原判決の破棄差し戻しが相当とする反対意見を表明した。また、補足意見を述べたうち3名の裁判官も、「(起立斉唱は)国旗・国歌に対する敬意の表明という意味を含むことも否定し難いことから、職務命令と思想及び良心の自由との関係もそれだけ複雑で法的に難しい問題を孕む」(那須弘平裁判官)、「①当該命令の必要性の程度、②不履行の程度、態様、③不履行による損害など影響の程度、④代替措置の有無と適否、⑤課せられた不利益の程度とその影響など諸般の事情を勘案した結果、当該不利益処分を課すことが裁量権の逸脱又は濫用に該当する場合があり得る」(岡部喜代子裁判官)、「個人の内心の思想信条に関わりを持つ事柄として慎重な配慮も要する」(大谷剛彦裁判官)と指摘し、思想・良心の自由について慎重な検討を行っている。

 

先の第二小法廷の判決でも4名のうち3名の裁判官が補足意見を表明し、第一小法廷の判決でも5名のうち1名の裁判官が反対意見、1名の裁判官が補足意見を表明しており、本判決を含め14名中9名の裁判官が思想・良心の自由について慎重に配慮する姿勢を示したことになる。

 

すなわち、最高裁は、多数意見の裁判官を含め、君が代の起立・斉唱行為の強制を無条件に容認したものではなく、思想・良心の自由に対する慎重な配慮を求めていると解しうるのである。

 

よって、当連合会は、先の第二小法廷及び第一小法廷の各判決に対する声明に重ねて、東京都及び東京都教育委員会を含め、広く教育行政担当者に対し、教職員に君が代斉唱の際の起立・斉唱を含め国旗・国歌を強制することのないよう強く要請する。


2011年(平成23年)6月23日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児