被災地の生活保護費の全額国庫負担と、生活保護制度改革の民主的な議論を求める会長声明

厳しい雇用情勢の影響で生活保護受給者が急増している中、厚生労働省は、保護費の抑制を目的として生活保護制度の本格的な見直しに着手したと報道されている。本年5月30日には、厚生労働省政務三役と地方団体(知事会、市長会、町村会)の代表者が出席して、「生活保護制度に関する国と地方の協議」が開催された。


報道によれば、平松大阪市長が生活保護費の全額国庫負担を強く求めたのに対し、細川厚生労働大臣が、東日本大震災の被災地では仕事も家も失った人たちが生活保護を申請するケースが相次ぐという見通しを示したうえで、①就労・自立支援の強化、②医療・住宅扶助の適正化、③不正受給防止、④「第2のセーフティネット」と生活保護との関係整理の4つの検討課題を提示したとされており、保護費の全額国庫負担を検討課題に挙げていない。


ところで、被災地の福島県や宮城県においては、本年5月2日付け厚生労働省社会・援護局保護課長通知「東日本大震災による被災者の生活保護の取扱いについて(その3)」に反する独自運用で義援金等を収入認定するなどして生活保護を打ち切る例が相次いでおり、今後同様の動きが他の被災地にも広がることが懸念されている。被災者支援を言うのであれば、保護費を削減するための制度改革ではなく、前記のような通知に反する運用の是正指導を徹底するとともに、被災地の財政負担を軽減するため、国家責任の原理(憲法25条、生活保護法1条)を貫徹し、当面、被災地に限定した保護費の全額国庫負担を緊急に実現することこそが求められている。


また、同「協議」の開催はわずか1週間前に明らかにされ、非公開で実施されており、その法的位置づけや開催方法などの手続が極めて不透明であるという重大な問題がある。生活保護制度は、最後のセーフティネットとして市民の生存を支える極めて重要な制度であり、その抜本改革に向けた議論は、生活保護利用者、その支援者や弁護士、学識経験者の参加のもと、公開の場で民主的に行われるべきである。


当連合会は、国に対し、被災自治体の通知に反する運用の是正指導の徹底と被災地に限定した保護費の全額国庫負担を緊急に実現することを求める。また、前記「協議」の開催に強い懸念を表明し、生活保護制度の改革に関する議論は、市民参加のもと、公開の場において慎重に行うよう強く求めるものである。


2011年(平成23年)6月15日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児