福島地方検察庁による釈放をめぐる議論に関する会長談話

東日本大震災、津波、福島原子力発電所の事故という未曽有の災害の中、報道によれば、仙台地方検察庁では本庁と4支部で計27人を処分保留のまま釈放し、3人の勾留を取り消し、福島地方検察庁では、本庁、いわき支部、郡山支部で計31人を処分保留で釈放したとのことである。このうち、福島地方検察庁で釈放された者のうちには事案が必ずしも軽微とはいいきれない強制わいせつ事件の被疑者が含まれており、また、釈放された者が再び逮捕されることとなったことなどがあったことから、釈放の指揮自体の妥当性について問題とする向きもある。

 

しかしながら、そもそも現行刑事訴訟法上、勾留は、「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由」や「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」がある場合に認められる例外的なものである。刑事事件においては、被疑者について適切に捜査が遂げられて公訴提起された場合に、被告人となった被疑者に対して適正な手続によって適正な裁判所の審理が行われ、実刑が確定した場合には適切にその刑が執行されるということが制度的に確保されれば刑事司法の目的は達成される。逮捕・勾留は過去の犯罪についての適正な審理のために被疑者・被告人の身体を確保しておくことが目的なのであり、再犯の防止が目的なのではない。

 

今回、上記のとおり処分保留のまま釈放されたり、勾留が取り消されたりしたほとんどのケースにおいて、その後の刑事手続に支障が生じたとの情報はない。このことは、一般論として、勾留の必要性を厳格に判断して、できる限り身体拘束を避けることを追求しても、格段の支障は生じないことを示してもいる。

 

今回の災害時の釈放指揮について、治安の維持などという抽象的危険のみを論拠に非難するのは当を得た批判とは思われない。折しも、法制審議会で、新たな時代の刑事司法制度の在り方に関して、「取調べや供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直し」を含む検討が行われようとしている。

 

韓国では、極力身体拘束をせずに刑事手続をするべく刑事訴訟法に不拘束捜査の原則が定められており、実際にも身体拘束されない在宅事件が多い。

 

わが国においても、取調べのための身体拘束、自白するまで拘束しておくといういわゆる「人質司法」をあらためるべく、現行法のもとで運用によって身体拘束を限定的なものとすることはもとより、刑事訴訟法の改正を含む勾留、保釈制度の見直しを進めるべきときである。


2011年(平成23年)6月13日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児