司法制度改革審議会意見書10周年に当たっての会長談話

司法制度改革審議会意見書(以下「意見書」という。)が公表されてから、本年6月12日をもって10周年を迎える。

 

意見書は、「法の精神、法の支配が・・・あまねく国家、社会に浸透し、国民の日常生活において息づくようになる」ことを目標として掲げ、①司法制度をより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのあるものとすること、②質量ともに豊かなプロフェッションとしての法曹を確保すること、③国民が訴訟手続に参加する制度の導入等により司法に対する国民の信頼を高めることを、司法制度改革の3つの柱とした。

 

意見書公表後10年を経過した現在、第1の柱については、長年にわたる当番弁護士制度の実践とその成果に基づき被疑者国選弁護制度が実現し、日本司法支援センター(法テラス)の発足や日弁連等の公設事務所設置により法律援助は大きく拡充した。また、労働審判制度の導入等の重要な改革が実現した。しかし、民事司法の改革はまだその緒についたばかりであり、民事法律扶助制度の拡充、提訴手数料の低額化及び定額化、集合訴訟制度及び民事審判制度の創設、裁判官の増員と裁判所支部の充実、権利保護保険の拡充、証拠収集手続の拡充、損害賠償制度、執行制度及び行政訴訟制度の改革等の諸課題が残されている。

 

第2の柱については、法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度が導入され、この制度により誕生した法律家はすでに約6500人に及んでいる。しかし、司法試験合格率の低迷、経済的負担の増大、急増する法曹人口に見合った職域拡大の遅れ等の要因から、法科大学院の志願者は当初に比べ大幅に減少し、新たな法曹養成制度全体が困難に直面している。この点については、新たに始まった「法曹養成に関するフォーラム」で議論される予定であるが、当連合会としては司法修習生の給費制維持とともに、法科大学院の総定員削減等の具体的改善策が合意されるよう努力したい。

 

第3の柱については、刑事事件における裁判員制度が導入され、多数の国民が裁判員として真摯に刑事裁判に取り組み、刑事裁判への国民の信頼と関心を高めた。しかし、他方、この間の足利事件や布川事件等のえん罪事件や検察官の証拠改ざん事件に見られるように、えん罪防止のための刑事司法改革の課題は解決していない。とりわけ捜査段階における取調べの可視化や検察官手持ち証拠の全面開示、人質司法の打破等は喫緊の課題である。当連合会は、裁判員裁判施行3年経過後の検証とあわせ、今後法制審議会特別部会で審議される刑事司法全体の改革に取り組みたい。

 

去る3月11日の東日本大震災後、被災者救済のために司法が何をなし得るかが問われている。この間、全国の多数の弁護士が被災地の無料法律相談に取り組んでいるほか、震災復興や原発被害に関する政策提言を行っているが、今後は被災地における災害復興ADRや裁判所支部機能の充実が重要な課題となる。当連合会はこうした被災者救済のためにも、市民の目線でこの10年間の司法改革の到達点を検証し、伸ばすべき点は発展させ、見直すべき点は大胆に見直す「第2次司法改革」を進めていく所存である。


2011年(平成23年)6月8日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児