布川事件再審無罪判決に関する会長声明
本日、水戸地方裁判所土浦支部は、いわゆる「布川事件」について、櫻井昌司氏と杉山卓男氏に対して、再審無罪を言い渡した。
当連合会は、1978年(昭和53年)の判決確定直後から、人権擁護委員会内に布川事件委員会を設置し、以来両氏の救済のため最大限の支援を続けてきたところであるが、この日のために長きにわたって無実を訴え続けてきた両氏とこれを支えてきた御家族・支援者の方々、弁護団の活動にあらためて敬意を表するものである。
本件強盗殺人現場には激しい格闘があったことや室内が物色されたことが明らかな多くの痕跡があったが、両氏の指紋や毛髪は全く存在せず、他にも両氏が犯人であることを示す物的証拠は皆無であった。それにもかかわらず、代用監獄で偽計・脅迫等によりもたらされた虚偽自白や、誘導され変遷が顕著な目撃証言など、はなはだ危うい供述証拠のみを根拠に有罪が認定された。
また、裁判所が警察の取調べの最終段階における自白録音テープに大きく影響を受けて自白の任意性を認めてしまったことは、一部録音録画の危険性を端的に示すものであった。さらに、両氏が無罪であることを示す証拠はずっと隠されたままであり、無罪方向の証拠の多くがようやく開示されたのは、第二次再審請求後のことであった。
本日の判決は、これらの問題点を指摘して無罪としたものであり、当然のことではあるが、ようやく正義を実現したことは評価できる。
ここに至るまで両氏を29年余もの間獄中に置き、43年余もの間、強盗殺人犯の汚名を着せ、筆舌に尽くしがたい苦しみを負わせてきた警察・検察及び裁判所の誤判に対する責任は重く、深刻に反省すべきである。 当連合会は、検察官に対して、控訴を断念し早期に両氏を強盗殺人犯の汚名から名実ともに解放することを強く求める。そして、今後とも再審支援の活動を一層強化し、えん罪被害者を早期に救済するため、あらゆる努力を惜しまない所存である。
また、当連合会は、今後も、虚偽自白を生み出し、不法な取調べの温床となっている代用監獄の廃止、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)、証拠の全面開示の実現など、えん罪を防止するための制度改革を実現するために全力を尽くす決意である。さらに、えん罪事件について、その原因を調査究明し、将来のえん罪防止へ向けて諸制度の運用改善及び立法を政府及び国会に提言する第三者機関の設置を国会・内閣に強く求めるものである。
2011年(平成23年)5月24日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児