福島第一原子力発電所から排出された放射性物質による汚染物の処理についての緊急対策を求める会長声明

1 去る4月22日、当連合会は、政府が同月19日に発表した「福島県内の学校等の 校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」に対して、一般公衆の被ばく基準量を最大年間20mSvまで許容するのは問題であるとして、改善を求める会長声明を発した。


一方、政府の調査結果によれば、放射性物質による汚染は福島県内を中心に、相当の範囲の土壌等が放射性物質による汚染をうけており、中にはチェルノブイリ原発事故並みの高い汚染地域があることが判明している。周辺の他都県の汚染も決して低いレベルではない。


原発事故はいまだ収束しておらず、高濃度の放射能汚染地域はさらに拡大し続ける可能性もある。原発事故を早期に収束して放射性物質の拡散を防止するとともに、既に放射能汚染された地域の住民の放射線被ばくを可能な限り軽減することは急務である。



2 文部科学省は避難区域の指定について空間放射線量を基準にしているが、上空から降下した放射性物質は、地表のみならず地上の家屋等の建物・構造物、樹木の葉、野草、汚泥等様々な物に付着・蓄積し、これらが風雨により池や側溝などに集積されれば、そこから高レベルの放射線が放出され、周囲の人や物をさらに放射能汚染させる危険が高くなる。実際、福島市でも側溝や落ち葉が堆積したところで、20μSv毎時、原発から80km南西の西郷村でも刈り取った雑草を集積したところで6μSv毎時という高い放射線量が検出されている。


また、道路清掃作業や雑草の刈り取り作業等で放射性物質が集められ、これらが一般廃棄物として焼却処理されると環境中に放射能が再度放出される危険がある。


こうした放射能による汚染物は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年六月十日法律第百六十六号)(以下「原子炉等規制法」という)61条の2に従い、放射能濃度のクリアランスレベル(年間0.01 mSv)を下回らない限り「放射性物質に汚染された物」に該当するため、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年十二月二十五日法律第百三十七号)にいう廃棄物には該当せず(同法2条1号)、法律上は通常の廃棄物処理の方法で処理し焼却することはできない。そして、「放射性物質に汚染された物」についての対策は、原子炉等規制法35条にその定めがあるだけで、今回のように広く生活環境が放射性物質により汚染された場合の具体的な対策・措置については、なんら制度が存在しない。


こうした現状の下で、汚染物の存在する場所の清掃や草刈り作業に子どもや妊婦が従事したり、市民が相当な防護措置をとらないまま作業を行なうのを放置することは許されない。


この間、環境省において5月2日に「福島県内の災害廃棄物の当面の取扱い」が、また、農林水産省において5月6日に「放射性物質が検出された野菜等の廃棄方法について(Q&A)」が出されているが、前者においては本声明で触れている汚染物の問題には全く触れておらず、また、後者においても「集めて保管し、処分は行わない。今後の処分方法については、別途検討結果を踏まえ対応する」にとどまり、具体的な対応策が定められていない。


3 以上を踏まえ、当連合会は、住民の安全を確保するため、国及び福島県に対し、緊急に、以下の措置をとるよう求めるものである。


(1) 屋根・雨樋、植物のある場所、プール、側溝、ゴミ捨て場等、放射性物質に汚染された物が集積される危険のある場所を周知徹底し、そのような場所に住民ができるだけ近づかないようにすること。


(2) 放射線の影響を受けやすい子どもや妊婦がプールや側溝等の掃除や草刈り等、放射線被ばくする可能性のある作業を行わないよう周知徹底すること。


(3) 成人市民がやむを得ずプール・側溝の掃除や草刈り等、放射線被ばくする可能性のある作業を行う場合には、防護措置が必要であることを周知徹底し、住民・作業員には防護マスク等を無償で配布し、具体的な防御方法についても教習すること。


(4) 当面の間、現在のクリアランスレベルを超えて放射性物質に汚染された物については、焼却等他の廃棄物と同様の処理を中止し、他の物と区別して仮置き場に集積して汚染拡大を防止すること。


(5) 早急に、生活環境に拡散した放射性物質に汚染された物の処理基準を策定してモニタリングを実施し、汚染物の適切な処理方針を確立すること。


2011年(平成23年)5月13日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児