広島拘置所における再審請求弁護人と死刑確定者との接見妨害事件国家賠償請求訴訟判決に関する会長談話

本年3月23日、広島地方裁判所は、広島拘置所に拘置されている死刑確定者と再審請求弁護人2名との接見に、同拘置所長が職員を立ち会わせて再審請求手続に向けた具体的な打合せに入ることを不能とした3件のうち2件について、接見に職員を立ち会わせるべき具体的事情は存在せず、職員を立ち会わせた広島拘置所長の判断は、国家賠償法上違法の評価を受けるものであると判示して、国側に損害賠償を命じる判決を言い渡し、双方から控訴なされた。

 

有罪の言渡しをした確定判決に事実認定の誤りがあった場合に、これを是正し正義を実現する手段は再審手続のみであり、再審請求権がとりわけ生命を奪われる危機に直面した死刑確定者にとって、極めて重要なものであり、十分な保障がなされる必要があることは言うまでもない。その再審手続において法律の専門家である弁護人による援助は不可欠であり、刑事施設において身体拘束を受けている刑の確定者が再審請求弁護人と接見する場合には、身体拘束を受けている被疑者・被告人が弁護人と接見する場合と同様に、秘密交通権が認められるべきである。

 

この点、本判決が、再審請求等の代理人弁護士との面会は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事被収容者処遇法」という。)121条ただし書により立会いの省略ができる事情に当たること、また、死刑確定者から選任された弁護人が再審請求の準備のために拘置所職員の立会いなしで面会し、所要の打合せをすることが必要であるのは当然のことと判断した点は評価できる。

 

しかし、本判決が身体拘束を受けている刑の確定者と再審請求弁護人との間の秘密交通権を認めず、個別事情に基づいて職員の立会い省略の相当性を個別の面会ごとに判断している点、「死刑確定者の心情把握の必要性がある」、「死刑確定者の再審請求の意思が明確でない」などといった理由で死刑確定者と再審請求弁護人との面会のほとんどに職員が立ち会っている現状を是正する方向を示さず、死刑確定者について、その心情を把握するために職員を立ち会わせる必要性があり得ることを一般論としては認めた点は到底首肯できない。

 

「心情把握の必要性」それ自体は、死刑確定者の権利を制限する根拠とはおよそなり得ないものである。

 

2006年(平成18年)5月に刑事被収容者処遇法が施行されて間もなく5年が経過し、「5年後見直し」の時期を迎えている。

 

当連合会は、昨年11月17日に「刑事被収容者処遇法『5年後見直し』に向けての改革提言」を公表し、その中で、同法施行後も権利制限原理として機能し続けている「心情の安定」を法文上から削除することを提言してきた。

 

2008年(平成20年)10月、自由権規約委員会も日本政府に対する勧告において、「死刑確定者と再審に関する弁護士との間のすべての面会の厳格な秘密性を確保すべきである」と勧告している。

 

当連合会は、今後も、刑事被収容者処遇法を抜本的に改正することを求め、死刑確定者等に対する再審請求権の保障を十全なものとし、再審制度の目的である刑事手続における正義の実現、えん罪防止等を実現するべく、引き続き刑事拘禁制度の改善に取り組んでいく決意である。


2011年(平成23年)4月5日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児