衆議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明

去る3月23日、最高裁判所は、2009年8月30日に施行された第45回衆議院議員総選挙(小選挙区選出議員選挙) に対し、各選挙区における議員定数が選挙区人口に比例して配分されず、最大で2.304倍の投票価値の格差が生じていたこと等を理由として弁護士らが訴えを起こした選挙無効確認請求訴訟について、「本件選挙時において、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた」「しかしながら、…憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったものということはできない。」「本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。」「合理的期間内に、できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別枠方式を廃止し、区画審設置法(衆議院議員選挙区画定審議会設置法(平成六年法律第三号)のこと)3条1項の趣旨に沿って本件区割規定を改正するなど、投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要がある」旨の判決を言い渡した。


当連合会は、1984年3月に、公職選挙法改正に関する要綱案(1984年2月17日理事会承認)の中で、議員の選挙人口格差を1対1.5以内の格差にとどめ、比較的短期間に1対2.0以上の格差をもたらさないようにすべきであると提言し、格差是正にあたっては、第三者委員会が是正案を作成して内閣に報告し、内閣は1対1.5の格差の範囲内の是正法律案を国会に提出すべき義務を負うとすべきであると提案している。


区画審設置法には当連合会の提案と同様のものが取り入れられてはいるが、同法3条2項は、各都道府県の人口数に関わらず先に議員定数を1配分するといういわゆる1人別枠配分を許容し、この配分などが投票価値の平等の実現を妨げてきた。


今回の判決はこの1人別枠方式について、国政における安定性、連続性の確保を図る必要があり、この点への配慮なくして選挙制度の改革自体が困難であったことを指摘しつつ、制度導入から10年以上が経過し、その間に2回の国勢調査が行われたことなどを指摘し、本件選挙実施時にはもはや1人別枠方式の合理性は失われていたとしたものである。多数意見は田原睦夫、宮川光治裁判官の反対意見のように、明確な憲法違反の判断を下すことは避けたものの、立法的措置の必要性に言及し、当連合会がかねてより求めてきた投票価値の平等の貫徹を国会及び衆議院議員選挙区画定審議会に求めたものであって、高く評価することができる。


選挙権が民主主義政治の根幹を構成する重要な権利であることは論をまたない。もし投票価値の平等が確保されないならば、表面上一人一票制を保障したとしても、その実、ある者の一票が他の者の数票に相当する価値を有することになり、そのある者には数票を他の者には一票を与えたと全く同一の政治的効果が生ずることになる。このように、一票の実質的価値に明らかな差異が生じると、有権者の意思を公平に、かつ、合理的に立法府に反映するところの平等選挙制の機能は著しく阻害されることになり、選挙権の平等は全く名目化・形骸化されることとなる。


当連合会は、かかる投票価値の平等の保障の重要性に鑑み、国に対し、直ちに、1人別枠方式を定める区画審設置法3条2項を廃止するとともに、衆議院議員選挙区画定審議会に選挙区別議員1人当たりの人口数を1対1にできる限り近づける努力を尽くすことを前提に、選挙区割の見直しに着手させるよう求めるものである。


2011年(平成23年)3月25日


日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児