親権制度見直しに関する会長声明

2010年3月から法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会において児童虐待防止に関する民法親権規定の見直し作業が進められてきたが、法務省は、本日、法制審議会が取りまとめた改正の要綱を公表した。


要綱によれば、親権喪失及び管理権喪失の要件の見直し、親権停止制度の新設、親権喪失及び停止の申立人の見直し、監護教育権規定の改正、懲戒権規定の改正、未成年後見制度の改正(複数後見、法人後見の導入)などが打ち出されている。従来、民法の親権制限規定は児童虐待防止のためにほとんど機能してこなかったと評されていたことを踏まえると、着実な一歩として評価できる。特に、監護教育権が子どもの利益のために行使されなければならないことを明確にしたこと、親権制限の要件として子どもの利益の観点から見直すとともに、現行の親権制限の要件である「濫用」、「不行跡」から「親権の行使が困難または不適当」に改めることによって親への制裁的性格をほぼ払拭したこと、親権喪失及び停止の申立人として子を加えたことは、実務的観点からのみならず、子どもの迅速な救済と権利保障という理念からも歓迎すべきことである。


一方、親権制限に柔軟性を与えるものと期待された親権の一部制限制度の導入、親権者の同意に代わる裁判所の許可制度の導入、未成年後見人の責任軽減などは見送られたほか、親権制限の場合の戸籍上の取扱いには手が付けられなかった。また、懲戒権規定の改正については、懲戒場に関する部分が削除されたことや懲戒権行使に子どもの利益の観点から一定の制限が加えられたことは評価できるものの、懲戒権規定そのものの削除には至らなかった。これらについては、今後もさまざまな場において、児童虐待防止に取り組む現場のニーズを踏まえつつ、いっそう具体的かつ実際的な議論がなされることを期待するものである。


児童虐待の相談件数は現在も増加の一途をたどっており、未来を担うべき子どもたちが命を落とすという痛ましい事件も後を絶たない。このような悲劇を食い止めるために、親権制度の改正は待ったなしの状況である。当連合会は、本日公表された要綱が一日も早く法律として結実することを強く期待するとともに、新たに導入される制度が十分に機能するよう、必要な関係法令の整備、運用の工夫、関係機関等への周知や研修の充実がはかられることを希望する。また、子どもを育てる親への支援の充実も併せて要望する。


2011年(平成23年)2月15日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児