司法修習貸与制施行延期に関する「裁判所法の一部を改正する法律」成立にあたっての会長声明

本日、今後一年間、司法修習生に対する貸与制の施行を延期する法律が国会で可決され成立した。これにより、明日から司法修習が開始される新第64期司法修習生に対して、従前の制度と同様の修習費用の給費が実施されることとなった。


今回の法改正の趣旨は、昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ、それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう、給費制が継続される一年間の間に、法曹養成制度に対する財政支援の在り方について政府及び最高裁判所の責務として見直しを行うこととされている。また、附帯決議の二項では「法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずること」を求めている。


このような改正法の内容は、給費制の完全な復活とはならなかったものの、「司法制度改革審議会意見書」(2001年6月12日)に基づき、この間取り組まれてきた司法改革を「第一次司法改革」と位置づけ、これをさらに検証・発展させ、市民目線で「第二次司法改革」に取り組んでいる当連合会の方針に一致する。この法改正のための活動に御協力いただいた市民団体、消費者団体や労働団体による「司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会」や法科大学院生、司法修習生、新人若手弁護士らによる「ビギナーズ・ネット」、困難な国会状況のなかで改正法の成立に並々ならぬ御尽力をいただいた各政党・国会議員の方々、最高裁判所、法務省の皆さんに心から感謝したい。


今回の法改正の過程では、国会や政府、報道関係者の一部から「すべての法曹が公共的な職務を遂行しているといえるのか」「経済的に困難な者に対する支援はもっともだが、経済的に裕福な者に対してまで給費する必要性があるのか」といった問いかけを受けた。当連合会は、これまで以上に弁護士の人権保障と社会正義の実現という公共的使命を自覚し、人権擁護、法律扶助制度の拡充や過疎偏在対策などに取り組んでいく。


当連合会は、これまでにも、「新しい法曹養成制度の改善方策に関する提言」(2009年1月16日)、「市民の司法を実現するため、司法修習生に対する給費制維持と法科大学院生に対する経済的支援を求める決議」(2010年5月28日)などの提言を行ってきたが、この法改正を受けて直ちに、給費制の維持を含む法曹志望者に対する経済的支援の在り方を再検討するとともに、法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度の理念をふまえつつ、法曹養成制度全体の見直しについて積極的に取り組んでいきたい。また、国に対し検討機関の早急な立ち上げを求め、このような機関における検討を加速するため真摯な提言を重ねていきたい。


2010年(平成22年)11月26日


日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児