「検察の在り方検討会議」発足にあたっての会長声明
本日、法務大臣は、「検察の在り方検討会議」の委員15名を発表した。
この会議は、大阪地方検察庁特別捜査部検事らによる証拠改ざん事件に端を発して設立されたものである。この機に、検察の組織体制のみならず、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)や検察官手持ち証拠の全面開示などの捜査の在り方についても議論し、再発防止に向けた徹底的な検証・検討が期待される。
ところが、最高検察庁は、全国の高等検察庁及び地方検察庁に対し、取調べメモの保管に関する通知文書(2008年7月9日付け最高検刑第199号、同年10月21日同296号)を発して取調べメモを「適正に保管する」ことを指示しつつも、他方で、これら通知の「補足説明」と称して、取調べメモの早期廃棄を推奨するかのごとき文書を発していたことが、この度、明らかになった。
取調べメモの保管に関する通知文書は、取調べメモを証拠開示の対象とした最高裁決定(2007年12月25日、2008年6月25日、同年9月30日)を受けて出されたものであり、特に、6月25日決定においては、捜査官が「捜査の過程で作成し保管するメモが証拠開示命令の対象となるものであるか否かの判断は、裁判所が行うべきものである」と判示している。
それにもかかわらず、上記「補足説明」では、「取調べメモの適正な保管の在り方を考えるに当たっては、必要性の乏しいものを安易に保管しておくことで、開示を巡る無用の問題が生じかねないことに思いを致し」、「本来、取調べメモは、そこに記載された供述内容等について、供述調書や捜査報告書が作成されれば、不要となるものであり」、「捜査の秘密の保持や関係者の名誉及びプライバシー保護の観点から、安易に保管を継続することなく廃棄すべきものである」などと繰り返し述べている。さらには、「(検察官が)証人出廷した場合に、個人的メモの存在にはあえて言及しない」などの記載もなされている。最高検察庁が、取調べメモ等による取調べ状況の再現を組織的に困難ならしめる対応をとったものと受けとめられてもやむを得ない内容である。
現に、厚生労働省元局長事件、広島少年院暴行陵虐事件などで、取調べ担当検事により、取調べメモの廃棄がなされた結果、密室取調べの状況を解明することが困難になるなど、実務的にも重大かつ深刻な影響が出ている。
このような実態が示された今、「検察の在り方検討会議」の場においても、メモ廃棄の実態、「補足説明」文書の作成経緯及び内容等を徹底的に検証し、取調べメモの適切な保存と開示により、取調べ状況の把握が可能となるよう対策を講ずることが急務である。抜本的には、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)と検察官手持ち証拠の全面開示の早期実現が必要であることはいうまでもない。
当連合会は、「検察の在り方検討会議」が、刑事司法に対する国民の信頼回復のために、広く国民に議論の過程を公開し、取調べメモの廃棄問題も含めた徹底した検討を行うことを期待する。
2010年(平成22年)11月4日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児