厚生労働省元局長事件における証拠の改ざん事件の真相解明を求める会長声明

9月10日に大阪地方裁判所が元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長に対して無罪判決を言い渡した事件について、9月21日、大阪地検特捜部の主任検事が、証拠として押収したフロッピーディスクを改ざんした疑いで、最高検察庁によって逮捕され、主任検事の執務室と自宅の捜索が行われるという事態となった。


検察官が描いたストーリーに沿って、関係者の供述を歪めただけでなく、元局長の無罪を示していた客観証拠までも改変したということであり、検察捜査についての国民の信頼を根底から揺るがす由々しい事態である。


このような行為は、証拠による裁判という司法制度の根幹をその根底から覆すものである。報道によれば、主任検事は内部調査に対して本年の2月頃には特捜部長に改ざんの事実を報告し、検事正にも伝わっていたとされている。これが事実であるとすれば、大阪地方検察庁は、本件がえん罪であることを知りながら公判を維持し論告求刑を行ったのではないかという、深刻な疑いが生ずる。


最高検察庁は本件の捜査と並行して、本件の検証を行うための組織を部内に作り、調査を始めるとされる。しかし、検察庁はこの事件の当事者であり、最高検察庁まで含めて調査の対象とすべきである。当連合会は捜査機関内部における証拠改ざんという前代未聞の事態に対応して、本件について、次のような事実を明らかにする必要があると考える。


すなわち、主任検事はなぜ証拠物であるフロッピーディスクを改ざんしたのか、主任検事が客観的証拠に改ざん工作をすることがなぜ可能だったのか、証拠の管理の体制はどうなっていたのか、この改ざんの事実をいつ、どの範囲の者が知ることとなったのか、大阪地方検察庁の幹部だけでなく検察組織全体の中でどの範囲の者がこの事実を知っていたのか、検察としてこのような捜査の在り方をチェックする体制はなかったのかなど、解明すべき課題が山積している。


本件では、取調べを担当した検察官が、取調べメモはすべて廃棄したと公判廷で証言している。本件捜査の問題点はフロッピーの改ざんだけにとどまるものではない。


今、求められていることは今回の誤起訴という事態がどのような原因で発生し、組織として、なぜ、このような捜査を許したのかを徹底的に糾明し、このような誤った捜査が二度と生ずることがないよう、取調べの可視化と、検察官手持証拠の全面開示などの冤罪防止策を講ずることである。しかし、検察の捜査・調査によって自らの問題点をどこまで明らかにすることができるかについては、重大な疑問がある。当連合会は足利事件の再審無罪を受け、誤判・誤起訴の事案について、このような事態を生み出した原因を徹底的に調査できる第三者機関を政府から独立した機関として設け、あらゆる調査を尽くせるよう、調査権限を付与すべきことを提案してきた。


このような機関が設置されるまでの間であっても、最高検察庁内部の検証組織に第三者を参加させ、独立した立場から検察組織の問題点の徹底解明を図るべきである。


当連合会は、捜査機関の根幹である検察官による証拠改ざんという前例のない事態に対応し、司法に対する信頼回復のため,本件についての徹底した真相解明が、それにふさわしい組織によって、適切な方法で遂行されることを強く求めるものである。


2010年(平成22年)9月22日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児