会計検査院の懲戒処分要求を防衛省が拒否した件に関する会長談話

米軍普天間飛行場の代替施設建設を巡り予算措置に重大な過失があったとして、会計検査院が那覇防衛施設局(現・沖縄防衛局。以下「施設局」という。)の元局長2人を懲戒処分にするよう防衛省に要求していた問題で、防衛省が6月3日付けで「懲戒処分は行わない」と会計検査院に通知していたことが報道された。


本件は、施設局が民間業者4社に海底地質調査などを約8億4000万円で委託契約したが、その後、警戒船の発注など契約外の作業が追加されたため、経費が予算を大幅に超えたにもかかわらず、追加業務について契約を変更せず、民間業者への支払いを拒否したことから業者側と裁判になり、結局、施設局側が業者に対して前渡金の2億5000万円のほか約22億円を支払うこととなったというものである。


この追加支出には、以下に述べるように憲法が定める財政民主主義に関する重大な問題が含まれている。すなわち、会計法令等によると、各省各庁の長は、財務大臣の承認を経た支出負担行為の実施計画について変更を要するときは、その事由を明らかにし、財務大臣の承認を求めなければならない(予算決算及び会計令18条の5第1項、支出負担行為等取扱規則6条参照)。そのため、支出負担行為担当官が支出負担行為をする際には、支出官(各省各庁の長及びその委任を受けた者)に金額が超過しないことの確認を受けなければならないこととされている(会計法13条の2参照)。


しかし、元局長2人は支出行為担当官であるにもかかわらず、それらの追加変更手続をとらなかったのであるから、本件の追加支出は、憲法83条などが定める財政の民主的コントロールの趣旨に真っ向から反するものである。


さらに、元局長のうち1人は、代替施設建設に反対する地元住民等の阻止行動に対応するため、警戒船を大量に導入するという追加発注がなされたにもかかわらず、適切な手続を踏まなかったことも重大な問題である。


会計検査院が2007年度決算検査報告で会計法令等に違背した事態が見受けられたことを指摘したところ、防衛省が責任者だった元局長2人を「注意」と軽い処分にとどめたため、会計検査院は2009年12月に懲戒処分の「戒告」にするよう求めた。会計検査院の省庁への懲戒要求は57年ぶりだった。しかし、それにもかかわらず、防衛省は、この要求に従わず会計検査院の元局長2人に対する懲戒処分要求を拒否した。


自衛隊の合憲性についてはさておき、国の予算に対する民主的コントロールをないがしろにすることは、憲法が決して容認しないところである。また、国についての公金支出の違法性を問う司法手続がいまだ整備されていないという問題もある。


そこで、当連合会は、政府(防衛省)及び国会に対し、本件追加支出の経緯について徹底的に調査し、再発防止策を講じるよう求めるとともに、当連合会が2005年6月に提言した「公金検査請求訴訟制度」の創設について早急に検討するよう要望する。


2010年(平成22年)7月30日


日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児