映画「ザ・コーヴ」上映中止に関する会長談話

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今般、和歌山県のイルカ漁をテーマとしたドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」について、本年6月から上映を決めていた東京都内などの映画館3館が、相次いで上映を中止するという異例な事態が発生した。

 

これらの映画館が上映を中止した理由については、この映画を反日的だと批判する団体が上映の中止を求める抗議活動をすると予告したことから、近隣の住民らに迷惑が掛かることを配慮して自粛したためであると報じられている。

 

映画という表現の手段が、憲法21条の保障する言論及び表現の自由に含まれることは言うまでもない。そして、映画の上映を劇場が中止することは、映画制作者の表現の機会自体を奪うものであり、表現の自由が大きく損なわれるというほかない。また、上映中止により、映画を鑑賞する国民の知る権利が損なわれることになる。

 

なお、この映画については、地元の関係者他からも隠し撮りなどの手法を含め、さまざまな批判がなされている。しかし、このような批判に一定の理由があったとしても、その作品を発表する自由は保障されなければならない。

 

また、抗議活動があるとの理由で公開が否定された場合には、主権者である国民が自らの政治的意見などを形成するにあたって必要となる多様な意見が社会に提供されることが困難となりかねない。

 

よって、当連合会は、映画関係者に対し、毅然とした態度で上映を実施するよう求める。さらに、当連合会は、関係するすべての当事者に対し表現の自由を最大限尊重するよう求めるとともに、今後も、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする立場から、最大限の努力をする決意をあらためて表明する。

 

2010年(平成22年)6月16日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児