生活保護における老齢加算減額・廃止に関する福岡高裁判決に対する会長談話

福岡高等裁判所は、本年6月14日、北九州市在住の70歳以上の生活保護利用者39名が、北九州市に対し、生活保護の老齢加算減額・廃止を内容とする保護変更決定処分の取消を求めた訴訟において、原告らの請求を棄却した一審判決を破棄し、原処分を取り消す画期的な判決を下した。


老齢加算は、70歳以上の生活保護利用者に対し、加齢に伴う特有の生活需要を満たすために1960年(昭和35年)から実施されたものであるが、厚生労働大臣は、2004年度(平成16年度)からの段階的な廃止を決定し、2006年度(平成18年度)には全廃されるに至った。その結果、高齢の被保護世帯は、約20%もの生活扶助費を削減されることとなった。


しかし、老齢加算は、中央社会福祉審議会生活保護専門分科会における検証の結果、2回にわたりその必要性が肯定されているものであるし、創設以来40年余りにわたり、高齢の被保護世帯の健康で文化的な最低限度の生活の維持のために不可欠なものとなっていたものである。


本判決は、2003年(平成15年)7月28日に厚生労働省社会保障審議会に設置された生活保護の在り方に関する専門委員会における議論など、減額・廃止に至る経過を詳細に検討している。その上で、上記専門委員会中間とりまとめが求めた、高齢者世帯の最低生活水準が維持されることや激変緩和措置をとることについて、十分検討することなく行われた老齢加算の減額・廃止は、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであることを明快に指摘し、老齢加算減額・廃止は厚生労働大臣が裁量権を逸脱ないし濫用したものであると断罪し、生活保護法56条に反し違法であることを認めた。憲法及び生活保護法の目的、趣旨に合致した正当な判決である。


当連合会は、2006年(平成18年)の第49回人権擁護大会において、貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現するために生活保護の切り下げを止めることを求め、また、2008年(平成20年)11月には、法改正に当たり民主的コントロールを受けないまま減額・廃止されてきた老齢加算及び母子加算を減額・廃止前の内容で復活させるべきであることを提言した。


その後、母子加算は昨年12月に復活されたものの、老齢加算は未だ廃止されたままという不均衡な状態が続いており、高齢者の貧困対策が置き去りにされている。


当連合会は、このような状況のもとで、福岡高裁で正当な判断が下されたことを高く評価するとともに、厚生労働大臣においては、対象世帯の高齢化が一層進んでおり、各地で多くの同種事件の原告が亡くなっていることを真摯に受け止め、上告することなく本判決に従い、老齢加算を速やかに復活させることを求める。


2010年(平成22年)6月16日


日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児