名古屋刑務所事件国賠訴訟判決に関する会長談話
本日、名古屋地方裁判所民事第10部は、名古屋刑務所の看守らが3名の受刑者に対して、不必要かつ異常な緊縛度で革手錠を使用したことにより死者、負傷者を出した事件について、国側に損害賠償を命じる判決を言い渡した。
この事件の発覚を契機として、刑務所という密室内での受刑者への処遇が、規律偏重に陥り、真の意味での受刑者の改善・更生に寄与するものとなっていなかったのではないかとの反省から、旧監獄法の全面改正が国会でも議論され、法務省は有識者からなる行刑改革会議を設置した。同会議は「国民に理解され、支えられる刑務所へ」と題する提言をとりまとめ、その結果、旧監獄法は「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(刑事被収容者処遇法)に全面的に改正された。
当連合会は、2003年5月に「名古屋刑務所事件を契機に刑務所等の抜本的改革を求める決議」(第54回定期総会)を採択したのを初めとして、「社会に開かれた刑務所」の実現に向けて取り組んでおり、旧監獄法の全面改正により、当連合会が長年にわたって主張してきた、地域住民や弁護士・医師からなる視察委員会の制度が発足するなど、各地で処遇改善のための活動を行い、「市民に開かれた刑務所」の実践に寄与している。
今回の判決は、行刑改革のきっかけとなった名古屋刑務所事件について、刑事事件として不起訴となったものも含めて、国の責任を改めて明らかにした点に大きな意義を持つものである。来年は、刑事被収容者処遇法の施行から5年を経過することから、同法附則に基づく「5年後見直し」の時期を迎える。国は、この判決の趣旨を踏まえ、さらに改善に取り組むべきである。当連合会は、刑事被収容者処遇法の適用の実態をふまえ、同法とその運用の見直しを検討しているところであるが、今回の判決を契機として、改めて受刑者の人権を尊重し、真の意味での改善・更生に資する刑事被収容者処遇の実践に向けて、全力を挙げて取り組む決意である。
2010年(平成22年)5月25日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児