裁判員法施行一周年を迎えるにあたって(会長談話)

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本日、裁判員法(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律)が施行されて、一周年を迎えました。


実際に裁判員に選任された市民の方々が、真摯に事件に取り組まれ、制度の運用は比較的順調に推移してきました。また、行刑や更生保護の実態に至るまで、裁判員の関心は広く、刑の決定にあたっての議論の真剣さが判決内容から伝わってきました。そして、裁判員を経験した方の多くが、記者会見等において、自らの言葉で審理への誠実な取組状況を述べ、役割を果たした達成感と司法参加の意義についての積極的な感想を述べられました。


最高裁の公表したアンケート結果によると、95%を超える裁判員経験者が、裁判員として裁判に参加したことについて「よい経験と感じた」と回答し、7割を超える裁判員経験者が「審理内容は理解しやすかった」と回答しています。これは、法廷で「見て聞いて分かる」審理が実現され、刑事裁判に変化の兆しが見えてきた証と言えます。


これまでに審理が行われたのは公訴事実に争いのない事件が中心でしたが、今後は、公訴事実や責任能力が争われる事件、検察官が死刑を求刑する可能性のある重大事件等の審理も開かれます。連日的開廷が行われる裁判員裁判において被告人の防御権が保障されるよう、公判前整理手続において検察官から必要な証拠開示が行われるとともに、被告人の防御準備期間が十分確保されているか、適切な審理計画が実行されているかについて、関心を持って検証していく必要があります。最近の報道で「裁判員裁判事件が滞留している」と報じられていますが、この点も、十分な防御準備期間が確保されることを前提に、公判前整理手続が必要以上に長期化している実態がないかを検証していく必要があります。

 

裁判員法の施行に先立って、当連合会では、裁判員裁判に対応しうる弁護士を養成するため、法廷技術を学ぶ実演型研修、弁護戦略の確立を学ぶ実践的な研修等、様々な研修を行ってきました。それらの研修は一定の成果を上げてきたものと考えています。しかし、最高裁の公表したアンケート結果によると、弁護人の法廷での説明がわかりやすかったと回答した裁判員経験者の割合は、検察官の説明に比べて下回っています。


当連合会は、この結果を真撃に受け止め、これまで以上に研修と弁護活動の経験交流等を充実させ、会員の弁護技術の向上、弁護の質の向上に努めます。

 

また、あわせて、裁判員が参加しやすい制度の実現、裁判員の守秘義務の軽減等の課題に取り組むとともに、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)等、被疑者・被告人の権利が十分保障された刑事手続の実現に向けて力を尽くします。

 

2010年5月21日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児