警視庁による「警察庁長官狙撃事件の捜査結果概要」の公開に関する会長声明

2010年3月30日、警視庁管内で発生した國松警察庁長官(当時)に対する狙撃事件について公訴時効が成立し、警視庁は、同事件を被疑者不詳として東京地方検察庁に送致した。これに併せて、同日、「警察庁長官狙撃事件の捜査結果概要」を記者会見の際に発表すると共に警視庁ホームページに掲載した。


そこでは、「事件概要」、「捜査体制及び捜査経過」、並びに「現場捜査の結果に基づく犯行状況及び犯人像」を述べるだけでなく、「捜査の結果判明した複数の教団信者の本事件関与の疑い」として、結論において、「本事件は、教祖…の意思の下、教団信者のグループにより敢行された計画的、組織的なテロであった」と述べている。


しかしながら、本件は、公訴時効の成立までに被疑者を送検できなかった事件である。このような事件について、捜査機関が、裁判を経ずして一方的に具体的な事件に関する事実を認定すること、ある人物や団体を犯人と特定して、これを公表することは、憲法31条及び「無罪の推定」の原則に明らかに反する。しかも、公表するか否かを、捜査機関が事件によって恣意的に決めることは、認められるべきではない。


重大事件において、公訴時効の完成後に、未解決に終わった原因について捜査機関の検証結果を公表することは、捜査の在り方を批判的に検討するための資料を国民に提供する意味で有益な点もあるとは思われる。しかしながら、上記に述べた理由から、第一次捜査権を担うにすぎない警察が、有罪判決が出されていないことはもとより、検察における起訴さえなされなかった事件について、上記のような公表を行うことは決して許されないというべきである。


よって、直ちにホームページ上の公表を中止すると共に、二度とこのようなことがないよう強く求めるものである。


2010年(平成22年)4月27日


日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児