「沖縄密約情報公開訴訟」東京地裁判決に関する会長談話

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東京地方裁判所は、2010年4月9日、沖縄返還交渉における財政密約文書の情報公開訴訟に関し、同文書を不存在とする外務大臣及び財務大臣の決定を取り消し、両大臣に開示決定を命じるとともに、原告らの知る権利が侵害されたとして国に損害賠償請求を認める旨の判決を下した。

 

本判決は、財政密約の存在を明確に認め、財政密約文書は第一級の歴史的価値を有すると位置づけたうえで、開示請求者が、財政密約文書の作成・取得・保有を主張立証すれば、継続して文書が保有されていると事実上推認できるとし、この推認を覆すには、国において廃棄・移管等、保有が失われたことを主張立証することを要するという文書の存否の主張立証責任に関する新しい判断枠組みを示した。

 

これは当連合会が、外務省の「密約」問題調査に関し、仮に文書が廃棄されている場合には、廃棄の時期及び理由まで踏み込んで検証するよう求めたことと軌を一にするものであり、国民共有の知的資源である公文書の廃棄について、情報公開法を貫く理念である行政の説明責任を明確にした点で、高く評価できる。

 

また、同判決は、「日本政府は、過去の事実関係を真摯に検証し、その諸活動を国民に説明する責務がある」との立場から、通常求められる調査をしないまま不開示決定を行ったことについて、開示請求者らの期待を裏切り、知る権利をないがしろにする対応で不誠実と厳しく指弾した。

 

そもそも、民主社会は、主権者たる国民が、必要とする事実を知り得た上で、討議を行い、その結果国家の政策が決定されることを大前提として成り立っている。密約や重要文書の破棄は、このような民主的プロセスを歪め、ひいては国家の方向性を誤らせてしまう危険がある。同判決は、国民の知る権利の重要性と本質を明確に認めたもので画期的な意義を有する。

 

当連合会は、これまで、知る権利を情報公開法の目的規定に明記すること、公文書の30年公開原則を公文書管理法に規定すること、恣意的で不適切な文書の廃棄や杜撰な管理による文書の紛失を防止するための罰則を制定すること等を提言してきた。本判決は、その提言の正当性、妥当性を裏付けるものである。当連合会は、政府に対し、現在すすめられている情報公開法改正の検討作業等において、これらの提言を反映し、国民の知る権利を担保する真の意味での国民の情報主権を確立することを求める。

 

2010年4月14日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児