民法の成年年齢の引下げの議論に関する会長声明

法制審議会民法成年年齢部会は、2009年(平成21年)7月29日、民法の成年年齢の引下げについての最終報告書(以下「報告書」という。)を取りまとめ、これが、9月17日に開催される第159回法制審議会で審議される予定となっている。この報告書は、「若年者の自立を援助するための施策」や「消費者被害が拡大しないための施策」をまず実現し、「これらの施策の効果が十分に発揮され、それが国民の意識として現れた段階」になるまでは、「現時点で直ちに民法の成年年齢の引下げを行うことは相当ではない」としている。これは、当連合会の2008年(平成20年)10月21日付け意見書の認識にも沿うものであり、一定の評価をしうるものである。


しかし、報告書にも指摘されているとおり、次のような課題に取り組むことが必要である。


第1に、今回の検討は、関係法令に与える影響を考慮しないで民法のみの検討を行った結果のものとされている。ただ、民法の成年年齢の引下げは、単に私法上の行為能力の問題だけでなく、日本社会が何歳を「成年」として扱っていくかという、極めて影響の大きな問題である。したがって、関係法令への影響を考慮しないまま民法の成年年齢引下げとの結論を出すことは妥当でない。今後、少年法等他の関係法令に与える現実的な影響を十分慎重に検討したうえで、民法の成年年齢について引き下げるか否かの結論を出すべきである。


第2に、報告書も認めるとおり、成年年齢引下げにより、18歳、19歳の者の消費者被害が拡大する可能性がある。報告書は、消費者関係教育の充実等のほか、消費者保護施策の更なる充実を図る必要があるとしている。結局、これらの点については、今後専門家を交え、また関係者の意見を十分に聴いたうえで検討しなければならず、その施策の効果等についても検証が必要である。


第3に、成年年齢を引き下げると、離婚後の未成年の子の養育費の支払の終期は、現状より早まることになる。すなわち、養育費は未成熟子に対する監護費用の分担であると考えられており、成年に達した後は打ち切られることになる。他方、成年に達した子自身が大学に進学した場合の学費等を扶養料として親に請求することは、法律上可能であるが、実務上の困難があるとみられている。したがって、このような問題についても法制度の整備が必要である。


第4に、報告書は「民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることは、18歳、19歳の者を『大人』として扱い、社会への参加時期を早めることを意味する」としているが、その前提として、若者が社会で自立できる環境を整備する具体的施策をまとめる必要がある。


以上のとおり、民法の成年年齢を引き下げるという結論をまとめるためには、いまだ多くの検討課題がある。したがって、今後関係各所においてこれらを十分に検討すべきである。


2009年(平成21年)9月10日


日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠