生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明

生活保護における「母子加算」(削減前の月額は都市部で2万3、260円)は、厚生労働省告示により、本年4月1日に段階的削減を経て完全に廃止され、約10万世帯のひとり親世帯、約18万人の子どもが影響を受けることとなった。十分な医療を受けることができなかったり、高等学校の入学に際しての費用や学費が支払えず、進学や通学を断念したり、また、修学旅行や部活動に参加できない子どもたちが続出することが懸念される。


このような母子加算が廃止された論拠として、「一般母子世帯の消費生活水準との均衡」、すなわち、母子加算手当を受給している世帯の消費生活水準が生活保護を受けていない一般母子世帯の消費生活水準を上回ることが挙げられている。しかしながら、母子世帯の8割以上は働いているにもかかわらず、その年間の就労収入は平均171万円に過ぎないことや、生活保護の捕捉率(受けられる人のうち実際に受けている人の割合)が20%程度であるとされていることなどからすれば、一般母子世帯の多くが、本来、生活保護の受給が可能でありながら受給できていない世帯であると推測される。


したがって、生活保護基準以下の生活を強いられている一般母子世帯が多数存在することは母子加算を廃止する合理的根拠とはなりえず、母子加算は廃止すべきではなかったと言わざるを得ない。


ところで、当連合会は、2006年の人権擁護大会において「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を採択して以来、民主的コントロールの及ばない安易な給付制限には人権保障上多大な問題がある旨の意見をその都度表明してきたところである。


当連合会は、母子家庭の子どもたちが尊厳をもって成長し、貧困が次世代へ再生産されることのないよう、国会において、母子加算を従前の保護基準に戻し、かつこれを法律で定めるよう強く要請するものである。


2009年(平成21年)6月18日


日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠