海賊行為対処法案に反対する会長声明
政府は、本年3月13日、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案を閣議決定し、同法案は同日、第171回通常国会に提出され、4月23日に衆議院で可決された。同法案は、海賊行為に関する罪を定めたうえで、海上保安庁に海賊行為への対処をさせるとともに、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得たうえで自衛隊に海賊対処行動を命ずることができるとし、さらに、自衛官及び海上保安官に停船射撃等の武器使用を認めようとするものである。
同法案は、領海の公共秩序を維持する目的の範囲(自衛隊法3条1項)を遙かにこえて、自衛隊の活動地域を公海にまで拡張し、また、対象行為を日本船舶だけでなく外国船舶を含む全ての船舶に対する海賊行為にまで拡大し、しかも、恒久的に自衛隊海外派遣を容認するものである。自衛隊の海外派遣の途を拡大し、海外活動における制約をなし崩しにしていくものであり、憲法9条に抵触するおそれがある。今一度、日本国憲法が、先の大戦の尊い犠牲のうえに、憲法9条を制定したことを思い起こすべきである。そもそも海賊行為等は、本来警察権により対処されるべきものであり、自衛隊による対処には疑問がある。海賊行為抑止のための対処行動は、警察権行使を任務とする海上保安庁によることとすべきである。
また、自衛官にまで停船射撃等の権限を与えることは、警察官職務執行法第7条に定める武器使用の範囲をこえ、武力による威嚇、さらには武力行使に至る危険性があり、この点においても武力行使を禁止した憲法9条に反する事態が危惧される。
加えて、自衛隊の海賊対処行動は、防衛大臣と内閣総理大臣の判断のみでなされ、国会へは事後報告で足りるとされるのであり(同法案第7条)、国会を通じた民主的コントロール上も大きな問題がある。
海賊行為等は、深刻な国際問題であり、ソマリア沖の問題について国連安保理決議がなされているなど、問題解決のために、国際協力が重要であることは明らかである。しかし、わが国が今、海賊対策としてなすべきことは、日本国憲法が宣言する恒久平和主義の精神にのっとり、問題の根源的な解決に寄与すべく、関係国のニーズに配慮しながら人道・経済支援や沿岸諸国の警備力向上のための援助などの非軍事アプローチを行うことである。国連海洋法条約や国連決議が各国に対し要請する海賊行為の抑止のための協力義務も、あくまで各国の憲法や法制の範囲内でのものである。
よって、当連合会は、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律の制定に反対する。
2009年5月7日
日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠