国際人権(自由権)規約委員会の総括所見に対する会長声明
国際人権(自由権)規約委員会は、2008年10月31日、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)の実施状況に関する第5回日本政府報告書に対して、同年10月15日、16日に行われた審査を踏まえ、総括所見を発表した。
総括所見は合計34項目にも及ぶ詳細な評価・勧告を行った。委員会は前回の審査から今回の審査までの10年間に、男女共同参画基本計画の樹立、女性の雇用差別、女性と子どもに対する暴力問題等に関し、一定の改善がなされたこと及び国際刑事裁判所への加盟等を積極的な側面として評価した(3,4項)。
他方、わが国において解決を迫られている主要な個別的人権課題として、取調べの全過程の録画と代用監獄の廃止、死刑廃止の検討と死刑制度の改善、戸別訪問禁止等表現の自由に対する不合理な制限の撤廃等を含む、別紙のような項目を掲げ、それぞれについて具体的な改善を勧告した。
とりわけ、日本の人権状況を改善するための制度的な措置として、特に注目すべきは以下の3点である。
第1点は第一選択議定書の批准である。個人通報制度は、国際人権法を個々の人権侵害からの救済に活かす極めて重要な制度であるが、政府は個人通報制度を定める選択議定書の批准をしていない。委員会はこの制度が第四審を作るものではなく、国内法の解釈や適用を審査するものではなく、司法の独立に影響を及ぼすものではないと述べ、日本政府に第一選択議定書の批准を強く求めている(8項)。
第2点は、政府から独立し、独立の調査・査察権限、財政的・人的基盤を有する実効的な国内人権救済機関の設置である。政府が2002年に国会に提案した人権擁護法案に基づく人権委員会制度は、国内人権救済機関についての国際基準であるパリ原則(1993年国連総会決議)に沿ったものであるとは評価できない。国内人権救済機関は、韓国、モンゴル、インドネシア、フィリピンをはじめとするアジア諸国にもすでに設置されており、わが国においても政府提案の法律案の見直しを図り、その設置を図ることが急務である(9項)。
第3点は、裁判官・検察官・弁護士に対する国際人権法教育である。この点は、第4回審査で委員会の指摘を受け一部実施されてはいるが、未だ十分といえない。今回の審査においても委員からは、日本の裁判所や捜査機関が自由権規約を誤解している例が多いとし、「公共の福祉」を理由にした制約等、その問題性を指摘する声が相次いだ。今回の総括所見においても、下級審の裁判官を含めて自由権規約の解釈適用を職業訓練に含めるよう勧告がなされた(7,10項)。
委員会は、総括所見の冒頭2項において、当連合会をはじめとするNGOと政府とが不断に対話することにより、人権状況を改善する努力を強く求めている。今回の総括所見には2008年春に実施された国連人権理事会からなされた勧告と共通する部分が多く、国際社会から強く改革・改善を求められている人権課題を総括したものである。
当連合会は、日本政府が、委員会の勧告を誠意をもって受けとめ、その解決に向けて努力することを強く求めるとともに、その実現のために全力で努力していく所存であることをここに表明するものである。
2008年10月31日
日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠