鹿児島接見侵害国賠訴訟判決に関する会長声明

鹿児島地方裁判所は本日、鹿児島接見交通権侵害国家賠償請求事件において、原告である鹿児島県弁護士会所属弁護士10名、宮崎県弁護士会所属弁護士1名の全員について、弁護人と被疑者、被告人間の秘密交通権の侵害があったとして慰謝料等合計550万円の支払を命じる判決を言い渡した。


2003年4月に施行された鹿児島県県議会議員選挙における公職選挙法違反の刑事裁判は2007年2月23日に被告人12名全員に無罪判決が言い渡されて確定しており、またこの捜査過程で任意取調べを受けていた被疑者に踏み字を強制したことについて提訴された国賠事件に関しても慰謝料等の支払を認める判決がなされ、確定している。


今回の接見侵害国賠事件は、以上の公職選挙法違反事件で捜査対象とされた被疑者・被告人と、弁護人であった上記弁護士らとの接見について、捜査機関が、被疑者等から接見の都度、その直後に接見内容を聞き出し、これを供述調書化して刑事公判で合計76通もの供述調書を証拠請求してくるという、前代未聞の暴挙に出たため、弁護人である弁護士らが、秘密交通権が侵害されたとして2004年4月16日に提訴していたものである。


この接見侵害国賠訴訟において、被告国、県側は、秘密交通権は接見終了後には保障されないなどというこれまでの接見実務を無視した主張や、仮に事後的にも保障されるとしても、被疑者等が自発的に接見内容を話した場合や、供述に変遷がある場合、弁護人が否認の慫慂を行っていた場合などには接見内容を聴取しても違法性はない旨主張していた。しかし、本日鹿児島地方裁判所で言い渡された判決では、被告らの主張をいずれも斥けて、取調べにおいて秘密交通権の侵害がなされたことを認定し、捜査側の違法を明確にした。


秘密交通権は事後的には保障されないとする国、県側の主張は論外であり、これが否定されたのは当然であるが、本判決が、被告人らの自発的な供述によっても弁護人固有の接見交通権の放棄があったとは認められず、供述の変遷などということが、本件における接見内容を聴取する理由とならないことを明確にした実務的な意義は非常に大きい。これらは捜査機関の密室でのことであるので、このようなものが認められるとすれば、秘密交通権の保障は実際上骨抜きとなってしまうからである。ただ、同判決では秘密交通権は絶対的なものではないとしている点には問題点も存するところである。


接見交通権は刑事弁護の最も重要な基礎であり、被疑者、被告人との接見は「いつでも自由になされ、かつ秘密が絶対的に保障される」ことが必要不可欠である。なぜならば、接見の機会が自由であっても、その内容の秘密性が保障されなければ、被疑者、被告人は安心して弁護人に相談することができず、弁護人も事案に即した正しいアドバイスをすることが不可能となるからである。この意味からも、秘密交通権の保障が全うされて初めて、弁護権の行使が十全となるものである。


当連合会はこの立場から、秘密交通権の確立を訴えてきたもので、本日の判決を基礎に、今後も全会員一丸となって秘密交通権侵害を許さないための弁護活動実務を行うとともに、秘密交通権確立のために全力を傾けることを宣言する。


2008年(平成20年)3月24日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛