法曹人口問題についての当執行部の2年間にわたる取組み

2008年3月14日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛


法曹人口問題について、会内外でさまざまな議論が起こっている。2001年(平成13年)の司法制度改革審議会意見書及び2002年(平成14年)の司法制度改革推進計画閣議決定に基づき、2010年(平成22年)に司法試験合格者年3000人程度を目指すとの方針のもと合格者増がはかられており、法曹人口、特に弁護士人口は急激なペースで増加している。このペースで増員すると、弁護士人口は、2018年(平成30年)には約50000人となる見込みである。


このような中で、弁護士になっても法律事務所、企業、官庁等に採用してもらえないという弁護士の「就職問題」が深刻に懸念されているとともに、急激な増加による新法曹の質の問題も指摘されている。また法的需要の面においても、当連合会の弁護士業務総合推進センターが行った法的需要調査の結果によれば、今後5年程度の間に社会の法的需要が飛躍的に顕在化することはあまり期待できない。


他方で、2009年(平成21年)裁判員裁判及び被疑者国選弁護飛躍的増加への対応態勢が喫緊の課題として眼前にある。また、弁護士過疎偏在問題、弁護士へのアクセスの問題も大きな課題である。そして、前記法的需要調査においても、中長期的には、潜在的な法的需要が相当程度社会に存在することが示唆されている。


法曹人口増加は、現憲法の精神である法の支配を社会の隅々に及ぼし、大きな司法へと転換するためのインフラ整備の性格を有し、法科大学院制度の創設とともに、司法制度改革の大きな柱の一つである。この意味で、法曹人口をどれだけ増加させるべきなのか、どのようなペースでそれを達成するのかの問題は、単に弁護士会内の問題ではなく、司法制度全体にとって、そして日本の社会全体にとって、重要な課題である。


私の任期満了を間近に控えて、ここに法曹人口問題についてのこれまでの当連合会2006・2007年度(平成18・19年度)執行部の考え方と取組みを総括した。


1 基本的視点


法の支配の浸透という司法制度改革の理念の実現のためには、社会生活上の医師としての法曹人口の増加は必須である。そして、何が適正な法曹人口かは、社会が決めるのであって、社会の法的需要を充足するだけの量と質の法曹を安定的に供給することが求められている。


しかし、われわれは、社会の法的需要を度外視して自由競争に任せるとの考え方は採らない。また、利用者たる市民の権利・利益を擁護する観点から、法曹の一定の質が担保されることが是非とも必要である。法曹は社会のセーフティーネットでなければならないのであって、法曹人口問題を単なる経済問題ととらえるべきではない。


さらに、法の支配の浸透のためには、法曹人口を増加させただけでは不十分である。各地域の裁判所、検察庁等司法機関の人的物的基盤充実や、準司法、行政・地方自治体への法曹の進出等諸般の制度改革・基盤整備とをあわせて行う必要がある。


2 これまでの取組み


当連合会は、上記の基本的視点に立って、2010年頃に司法試験合格者3000人程度を目指すという前記閣議決定を尊重して、次のような方針で臨んできた。すなわち、顕在需要に着実に応えるための態勢をとりつつ、潜在需要の開拓とそのための供給態勢の構築に努めるとともに、弁護士の質の維持向上に努める、との方針である。具体的には、以下の通りである。


(1)2009年(平成21年)裁判員裁判及び被疑者国選弁護飛躍的増加を担いきるための対応態勢の整備に努めてきた。その一環として、国選弁護報酬の増額を実現することに注力する等環境整備にも努めてきた。


(2)弁護士の過疎偏在対策に全力を尽くしてきた。ひまわり基金事業による過疎偏在対策、偏在解消のための経済的支援策をわれわれ弁護士の負担のもとに推進する一方、法テラスによる司法過疎対策への協力を推進してきた。弁護士過疎偏在問題は弁護士を増やすだけでは解決しない問題であることから、国に対して基盤整備・援助を求め、自らも政策的な誘導を進めてきた。


(3)法律事務所への採用、所属弁護士複数化を働きかけてきた。


(4)新たな業務分野の開拓、企業・官庁・地方自治体・国際機関・その他諸機関への弁護士の採用働きかけを行ってきた。


(5)法科大学院を中核とした新たな法曹養成制度の着実な育成をはかるべく、予備試験のあり方についての提言や、法科大学院における刑事弁護教育充実のための取組み等に努めてきた。


(6)弁護士の研修の充実をはかるべく、法科大学院及び司法研修所での教育との連携に配慮しつつ、努めてきた。


(7)法的需要と法曹の質の検証を継続的に行うこととしてきた。質の検証については、法科大学院卒業生が実務に就いてから最低2年程度はその状況を検証すべきであるとの立場を採ってきた。そして、叙上の諸課題の達成状況を踏まえたうえで、将来の適正な法曹人口のあり方と、2010年以降の司法試験合格者数について見直しの政策提言を行うこととしてきた。


3 今後の課題


法の支配の浸透、大きな司法への転換のために、社会が必要とする量と質の法曹を養成し迎え入れることは弁護士会の責務であり、この点を揺るがせにしてはならない。


法曹人口問題は、人の養成の問題である。資格取得前の教育・訓練とともに、研修やオンザジョブトレーニングを中心とする資格取得後の教育・訓練も重要である。あまりに急激な法曹人口・新規法曹の増加は、ひずみをもたらす。そうなれば法曹及び司法に対する国民の信頼を失わせ、かえって法の支配浸透という司法制度改革の目標に反する結果となりかねない。


司法制度改革の目指すところをしっかり見据えつつ、法曹人口増加のプロセスを慎重にかつ実証的に検討することが求められる。


以上