「足利事件」再審請求棄却決定に関する会長声明

宇都宮地方裁判所は、本日、1990(平成2)年に栃木県足利市で発生した幼女誘拐殺人事件、いわゆる「足利事件」において、請求人菅家利和氏の再審請求を棄却した。請求人は無期懲役に処せられ、現在、千葉刑務所で服役中である。


本件は、同年5月12日午後6時ころ、栃木県足利市内のパチンコ店付近で行方不明となった幼女(当時4才)が、翌13日、渡良瀬川河川敷において、遺体で発見された事件である。犯人とされた請求人は、事件発生の翌1991(平成3)年12月、同人のDNA型が、幼女の衣類に付着していた精子のDNA型と一致するとの科警研のDNA鑑定を理由に逮捕・起訴された。一審の宇都宮地裁は請求人に対して無期懲役の有罪判決を言い渡し、二審の東京高裁も控訴を棄却し、第一審判決は、2000(平成12)年7月12日、最高裁の上告棄却決定により確定した。


本件において、請求人が有罪であることを裏付ける直接証拠は、請求人の自白を除けば、上記のDNA鑑定しかない。上記の最高裁決定は、初めてDNA鑑定の証拠能力を認めたものとされているが、このDNA鑑定は極めて初期の方式に基づいて行われたものであり、DNA型判定のものさしとなるマーカーに狂いがあったことが判明して現在は使用中止になっているなど、その正確性自体に大きな疑念がもたれている。


当連合会は、2002(平成14)年12月に請求人が再審請求を申し立てたのと同時に、人権擁護委員会内に足利事件委員会を設置し、本件を支援し続けてきたところである。


しかしながら、裁判所は、単純に正面から両手を首で締め付けて殺害したという確定判決が認定した殺害方法とは異なり、後ろから首を押さえつけて被害者の顔を水につけた殺害方法である等の内容の鑑定意見書を作成した法医学者二名を証人として取り調べ、両名は鑑定意見書のとおりの証言をしたにもかかわらず、新たな証拠によっても請求人の自白にある殺害方法の根幹となっている部分の信用性を否定するに足るものではないなどとして、再審請求を棄却した。


犯人のものとされる精液付着の下着の保全を決定したにもかかわらず、「足利事件」における最大の争点であり、請求人自身も望んでいるDNA型の再鑑定を実施することなく、再審請求棄却の結論に至った裁判所の判断は、請求人の主張に対して真摯に答えようとしない極めて不当なものというほかない。


このような再審請求棄却決定に対し、請求人は、直ちに即時抗告を行うことを決めた。


当連合会は、請求人の無実の声に応えるため、今後も東京高等裁判所で行われる「足利事件」の即時抗告審を引き続き支援することを表明するものである。


2008年(平成20年)2月13日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛