法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会の要綱採択に関する会長談話
法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会は、本日、少年法「改正」要綱(骨子)を採択した。
当連合会は、昨年11月21日「犯罪被害者等の少年審判への関与に関する意見書」をまとめた。そこでは、少年の立ち直り支援を目的とする少年法22条の審判の方式や非公開原則に照らし、被害者等による審判の傍聴については、少年の健全育成に資する場合に限り、少年審判規則29条で対応することができる、法律記録の閲覧・謄写を認める場合の要件を現行法よりも緩和することは検討に値する、と提言した。
今回の要綱(骨子)には、次のような問題がある。
第1に、被害者等による傍聴を許す家庭裁判所の判断基準を「少年の年齢及び心身の状態、事件の性質、審判の状況その他の事情を考慮して相当と認めるとき」としている。これでは、少年の健全育成という少年法1条の理念が後退し、少年の更生の観点から相当とは言えない場合でも、被害者等の申出により、裁判長が審判傍聴を許すという運用になりかねず、その結果、傍聴している被害者等に影響されて審判が刑事裁判的な運用になり、少年審判の教育的・福祉的機能が損なわれるおそれが強い。
加えて、傍聴の対象事件に14歳未満の少年(触法少年)の事件を含めているが、被害者等が傍聴することにより低年齢の少年が萎縮する可能性は一般的・類型的に高いから、14歳未満の少年の事件は傍聴対象から除外すべきである。
また、「被害者を傷害した場合にあっては、これにより生命に重大な危険を生じさせたときに限る」との要件は、傍聴の対象事件を限定する趣旨であることは理解できるが、現実の運用において限界が不明確であるから、さらに明確な要件にすべきである。
第2に、記録の閲覧・謄写を認める要件を緩和することは賛成であるが、閲覧・謄写の対象範囲を、法律記録の少年の身上経歴などプライバシーに関する部分についてまで拡大することは、少年の更生に対する影響からみて問題であるから、対象範囲から除外すべきである。
今なすべきことは、各関係機関が被害者等に対し、2000年少年法「改正」で導入された、被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法5条の2)、被害者等の意見聴取(少年法9条の2)、審判の結果通知(少年法31条の2)の各規定の存在をさらに丁寧に知らせ、これを被害者等が活用する支援体制を整備することである。あわせて、犯罪被害者に対する早期の経済的、精神的支援の制度、および国費による被害者代理人制度を、すみやかに拡充ないし新設すべきである。
当連合会は、要綱(骨子)による被害者等審判傍聴規定の新設は、少年法の理念と目的に重大な変質をもたらすおそれがあるから、強く反対するものである。
2008年(平成20年)1月25日
日本弁護士連合会
会長 平山 正剛