中国残留邦人等に対する新たな支援策を定める法律の成立にあたっての会長談話

本日、中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律の一部を改正する法律が成立した。


中国残留邦人等は、戦前、国策に従い中国東北部に移住した日本人で、敗戦前後の混乱期に広大な中国大陸での逃避行の末に帰国ができず、その後も国が十分な帰国支援策を打ち出さなかったことから、長期間中国国内に残留を余儀なくされ、厳しい対日感情のもと激動の歴史の中で筆舌に尽くし難い艱難辛苦を被りながら、他方で、わが国の高度経済成長の恩恵を享受することもできなかった。そればかりか、日本人としての義務教育を受ける機会等も与えられなかったため、帰国後も、就職先が見つからない、地域社会に受け入れられないなどの多くの苦難を経験し、現在もなお、将来への蓄えもないまま生活保護を受けるなど経済的に困窮している方々が多い。


中国残留邦人等に関する問題について、当連合会は、帰国した残留邦人の方々からの人権救済申立を受けて調査・検討した結果、国が、長年にわたって中国残留邦人等が本来的に享受すべき自由や権利を保障することなく放置し、人間としての尊厳を踏みにじってきたと判断し、2004(平成16)年3月、内閣総理大臣、衆参両院議長らに対し、①賠償金に代わる特別の生活保障給付金の支給、②特別の年金制度の策定、③教育支援、生活支援等を行い、帰国者らが尊厳を確保するために必要な施策を行うこと等を勧告している。


また、その後も、中国残留邦人等が国に損害賠償を求めた訴訟の判決の機会に、繰り返し早期解決を訴えてきた。


今回の法改正は、国民年金の特例として、老齢基礎年金の満額の支給を保証するとともに、収入の少ない世帯に新たに支援給付を行うもので、当連合会の勧告内容に照らし、この問題に関する一定の前進が見られた。また、支援給付にあたっては、収入認定等において中国残留邦人等の尊厳を傷つけない配慮がなされている点も評価したい。


さらに、中国残留邦人等の国に対する損害賠償請求において訴訟救助により支払いが猶予されていた費用について国が請求ができないとした点についても、中国残留邦人等の問題がかかる訴訟を通じて広く問題提起を行ったことによりはじめて解決の道筋が見いだされてきた経過からすると、妥当な措置であり、この点も評価されてよい。


ただし、この支援策の対象が1946(昭和21)年12月31日以前の出生者に限定されている点は問題であり、また、支援給付制度については、収入認定がなされるものとされたため、その運用如何によっては、生活保護の支給と実質的には大差ないものとなる虞がある。また、これまで国が行ってきた帰国後の日本語習得支援、就労支援、良質な住環境の整備等の諸施策が極めて不十分で、その課題が認識されながら、今回の法改正の段階では、具体的な改善施策が明らかになっていない。


当連合会は、すべての中国残留邦人等が真にその尊厳を回復できるよう、引き続き法の運用に注視していくとともに、国に対し、さらに、中国残留邦人等が置かれた立場に配慮した一層きめ細かな支援施策を具体化し実施するよう求めるものである。


2007年(平成19年)11月28日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛