北九州市小倉北区の餓死事件についての会長談話

今月11日から12日にかけて、北九州市小倉北区において、生活保護を今年4月に「辞退」した男性が自宅で死後1ヶ月経った状態で発見されたとの新聞報道がなされた。また、併せて、2005年(平成17年)と2006年(平成18年)に同じ北九州市で生活保護が認められず孤独死したことがあったことも報道された。


当連合会は、昨年10月に行われた人権擁護大会において、「現代日本の貧困と生存権保障」と題したシンポジウムを行い、「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を採択し、国及び地方自治体に対し、生活保護法の適正な運用を強く求めた。


しかしながら、生活保護の現場ではいまだに「水際作戦」や、受給者の意思に反した「辞退届」による保護の廃止などの対応が続いていることが窺われる事件であると言わざるを得ない。


生活保護は生活困窮者の最後の命綱であるから、保護廃止は慎重に行われなければならないことはいうまでもない。原則として要保護状態が解消されなければ保護廃止を行ってはならない。被保護者の真意に基づかない「辞退」によって廃止してはならないことはもちろん、たとえ真意に基づく辞退がなされたとしても、保護廃止によって直ちに急迫した状況に至ると認められる場合には、福祉事務所は保護を継続する義務を負うと解すべきである。


ところが、新聞報道によれば、死亡した男性は「働けないのに働けと言われた。」と日記に記していたとのことであり、「辞退」が真意に基づくものでなかったことが強く窺われるうえ、小倉北福祉事務所は、男性が自立するための仕事や収入源があるか否かの確認を行わなかったとのことである。そうだとすれば、保護廃止によって直ちに急迫した状況に至るか否か、すなわち、保護を継続する義務を負うのか否かの確認もしないまま保護廃止を行ったことになる。


その結果、男性は、保護廃止から僅か約2ヶ月で餓死したのであり、結局、保護廃止によって直ちに急迫した状況に至った可能性が高い。


このような運用は、法で保障された保護受給権の侵害であり、生存権を保障する憲法25条に照らし、到底容認できるものではない。


当連合会は、北九州市に対し、再びこのような事件が起きることのないよう、徹底した真相解明を求めるとともに、改めて国及び地方自治体に対し、生活保護制度の適法・適正な運用が行われるよう、直ちに改善の具体的方策を講じることを強く求めるものである。


2007年(平成19年)7月13日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛