国連拷問禁止委員会の最終見解発表にあたっての会長声明

拷問禁止委員会は、2007年5月18日付、拷問等禁止条約の実施状況に関する第1回日本政府報告書に対して、同年5月9日、10日に行われた審査を踏まえ、最終見解を発表した。同委員会は、拷問等禁止条約の批准国における実効的実施状況を監視する目的のもと、同条約に基づき設置された国際機関であり、わが国は、同条約の批准国として、委員会から勧告された点につき改善に向けて努力する義務を負う立場にある。


同委員会は、出入国管理及び難民認定法の一部改正、並びに、受刑者処遇法とその改正である刑事被収容者処遇法の施行・成立、とりわけ、刑事施設視察委員会、刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会、本年6月に設置が予定されている留置施設視察委員会など、透明性を高め暴力事件の再発防止に資する新たな制度を挙げ、法務省矯正局による矯正職員に対する人権教育の取り組みとともに、積極的に評価することができるものとした。


他方で同委員会は、日本政府に対して、次の諸点について厳しい見解を示している。なかでも同委員会がもっとも強く懸念を示し、重要な改革を求めているのは、代用監獄と、そこで行われる取調べの問題についてである。


まず代用監獄について、委員会は、未決拘禁を国際的な最低基準に適うものとするための効果的手段を即時に講ずるべきこと、とりわけ、未決拘禁における警察留置場の使用を制限すべく刑事被収容者処遇法の改正を求めている。そして、優先事項として、a)法を改正し捜査と拘禁を完全に分離すること、b)国際基準に適合するよう警察拘禁期間の上限を設定すること、c)逮捕直後からの弁護権、弁護人の取調べ立会いや起訴後の警察保有記録へのアクセスを確保し、かつ十分な医療を保障すること、d)留置施設視察委員会には、弁護士会の推薦する弁護士を任命することにより、警察拘禁に対する外部監査機関の独立性を保障すること、e)被留置者からの不服申立てを審査するため、公安委員会から独立した効果的制度を構築すること、f)公判前段階における拘禁の代替手段につき検討すること、g)防声具の使用を廃止すること、を挙げている。


また取調べと自白の問題について同委員会は、a)政府が、警察拘禁中のすべての取調べが録画等や弁護人の取調べ立会いによって監視されるべきこと、b)録画等の記録は刑事裁判において確実に利用可能とし、c)かつ、取調べ時間につき、違反への制裁を含む厳格な規制を即時に行うことを求め、d)条約に適合しない違法な取調べの結果得られたものであっても任意性があれば自白を証拠として許容している日本の刑事訴訟法と裁判の実情に懸念を表明し、拷問で得られた証拠排除を求める条約15条に適合するよう刑事訴訟法の改正を求めている。


自白強要によるえん罪を防止するため、代用監獄制度とそのもとにおける取調手続、さらには自白に関する法制を抜本的に改革することが、いまや喫緊の課題となったといえる。


さらに同委員会は、刑事被拘禁者の処遇については、a)適切かつ独立した、速やかな医療の提供、b)刑務所医療の厚生労働省への移管の検討、c)すべての長期にわたる独居拘禁のケースについて心理学的・精神医学的評価に基づく組織的な検討を行うべきことなどを勧告している。


難民認定制度と入管収容施設における処遇については、委員会は、a)条約3条(拷問の行われている国への送還を禁ずるいわゆるノンルフールマン・ルール)に適合させるため、拷問を受けると信ずるに足りる理由がある国には送還してはならない旨を明文化すること、b)難民認定についての独立の審査機関を設立すること、c)入管収容施設内の処遇に関する不服を審査する独立機関を速やかに設置すること、d)拘禁期間に上限を設けることなどを勧告している。


死刑制度と死刑確定者の処遇については、同委員会は、a)独居拘禁の原則と処刑の日時について事前の告知がないことなどに深刻な懸念を表明し、国際最低基準にのっとった改善を行うよう求めている。b)また、死刑執行の即時停止と減刑、恩赦を含む手続的改善を検討すべきこと、c)必要的な上訴制度を設けるべきこと、d)執行までに時間を要している場合に減刑の可能性を確保する法制度を作るべきことなどを勧告している。


さらに、委員会は、a)特別公務員暴行陵虐罪が条約に定められた精神的な拷問のすべてを明確に包含していないことに懸念を表明し、b)拷問と虐待についての時効期間を見直して条約上の義務を果たすべきこと、c)すべての被拘禁者の訴えを速やかに、公平に、かつ効果的に調査する権限を持った独立の国内人権機関を設立すべきであるとし、d)また捜査官に対する人権教育のカリキュラムを公表し、すべての法執行官と裁判官、入国警備官に対して、彼らの仕事が人権に及ぼす影響、とりわけ拷問と子ども・女性の権利に着目した定期的な研修を行うべきであると勧告している


当連合会は、今回の拷問禁止委員会の審査とその最終見解において、委員会が指摘したこれらの事項を日本政府は重く受け止め、誠意をもってその解決に向けて全力を挙げて努力すること、とりわけ優先順位が高いとされた代用監獄問題を含む未決拘禁の問題、取調べの可視化の問題及びノンルフールマン・ルールの遵守等については直ちに所要の対応措置を講ずることを強く求めるものである。


同時に、当連合会は委員会が指摘した事項について、自ら国内でその実現のために政府との対話を継続し、これらの課題の解決のために努力する所存であることを表明するものである。


2007年(平成19年)5月22日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛