いじめによる自殺に関する会長声明

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いじめにより自殺に追いつめられた子どもたちの報道が相次いでいる。 


いじめは、子どもの成長発達をさまたげ、ときには、いのちをも脅かす重大な人権侵害である。いじめによる自殺は、この人権侵害の最たるものであるといってよい。この人権侵害から子どもを守るものは教育に他ならない。


教育は、子どものいのちの尊重及び生存発達の権利を保障し、人権尊重の精神を育むことを目的のひとつとしている。子どもに人権尊重の精神を育むためには、子どもたちに自分が人間として尊重されていることが実感できる環境を整えることが必要である。


当連合会は、1994年12月、いじめによる自殺事件が社会問題化する中で、いじめの原因や構造を明らかにして子どもをいじめから救い出すことの必要性を指摘する会長声明を公表したのをはじめとして、今日まで様々な取り組みをしてきた。しかし、今日の一連のいじめによる自殺事件は、いじめを生み出す学校の状況が改善されないばかりか、むしろ悪化していることを疑わせるものである。
政府は、「リーダーを育てる」(内閣総理大臣の諮問機関である教育改革国民会議の2000年12月22日の報告)との視点で諸改革を行っているが、これにより、一方では、到達度の低い子どもたちには、学力を伸ばす機会を平等に保障するという本来の姿に反してむしろ学びの意欲を失わせ、他方では、リーダーをめざす子どもたちの間で他人をかえりみないという結果を招いている。今日の深刻な事態は、いずれにおいても、子どもたちのストレスがいっそう深まっていることを示している。他方、本年夏に文部科学省が実施した、公立小中学校の教員の勤務実態調査の結果によれば、教員の多忙さが明らかにされているが、このことは、ゆとりの持てない教員が子どもの個性や発達に応じたきめ細やかな教育を行うことが困難であることを示している。


国連子どもの権利委員会は、すでに1986年6月、政府報告に対する最終所見の中で、学校における過度に競争的な教育が子どもたちにストレスや発達障害を生じさせていることを指摘する一方、いじめについて懸念を表明し、これに対する対策を求めている。
政府は、子どもたちのストレスが深まっている教育環境を速やかに改善するとともに、教員が子どもたちの個性や発達に応じたきめ細やかな教育を行うことができる環境を整えるべきである。また、この最終所見が求めているように、子どもの権利オンブズマンなどのような政府から独立した人権保障を確保する機関を早急に設置すべきである。


当連合会は、子どもの人権をとりまく環境が悪化し、いじめによる自殺が増加している状況に対応するため、各単位弁護士会とともに、「子どもの人権110番」などの救済窓口の強化、各関係機関との連携・協議、提言などの可能な限りの努力を傾けることを誓うものである。


2006年(平成18年)12月8日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛