日本放送協会に対する放送命令に関する会長談話
総務大臣は、11月10日、日本放送協会(以下「NHK」という。)に対し、短波ラジオ国際放送で北朝鮮による拉致問題を重点的に取り扱うことを命じた。今回の放送命令は、これまでの「時事」、「国の重要な政策」及び「国際問題に関する政府の見解」という抽象的な表現とは異なり、個別具体的な事項を特定して放送を命じたものである。
もとより、北朝鮮による拉致問題は、国民の安全に対する重大な侵害である。同問題は拉致被害者にとって人権侵害の最たるものであるだけでなく、国家主権の侵害にも該当するおそれのある事柄であるため、政府一体となり、全力をあげて外交努力等、被害者の救出のために懸命の取組が続けられていることは高く評価するものである。そして、北朝鮮にいる被害者を励ましつつ、この問題に関する国際的な理解を深める手段として、同国際放送に対する期待が大きいのも事実である。
しかし、表現の自由、報道の自由は民主主義の根幹であり、放送の自律性の理念が最大限に保障されなければならない。今回のNHKへの放送命令は、あまりにも性急に過ぎるのではないかと判断する。
すなわち、放送命令は、放送法に根拠を有するものの、政府による放送に対する介入という性格を有することは否定できず、個別具体的な事項に関する放送命令は、放送法が定める放送番組編集の自由や、憲法が保障する報道の自由に抵触するおそれがあるといわざるを得ない。
当連合会は、放送命令が有する上記の問題点に鑑み、政府に対し、個別具体的な事項に関する放送命令を繰り返さないよう求めるとともに、NHKに対し、今後も、放送番組の自主的な編集を貫くよう求めるものである。
2006年(平成18年)11月20日
日本弁護士連合会
会長 平山 正剛