福岡県筑前町の中学生いじめ自殺事件の実名報道に対する会長談話
株式会社新潮社は、10月19日発売の「週刊新潮」において、福岡県筑前町の中学生いじめ自殺事件に関し、自殺した少年の実名を挙げた記事を掲載した。
同社の報道は、遺族の明確な意思に反して行われたものであり、その記事の内容に照らしても、遺族の意思に反してまで実名で報道する必要性は特に認められず、その内容も、本件いじめは、あたかも少年の容姿や日頃の行動などが招来した面があるかのごとく、興味本位の報道となっており、少年の名誉に対する配慮を欠くものであって、少年及び少年の両親、兄弟など遺族の名誉やプライバシーを著しく損なうおそれがある。
報道の自由は、公共性、公益性のある事項について、市民の知る権利に奉仕するためのものであり、尊重されなければならないが、他方で、被害者とその遺族の名誉やプライバシーが尊重されなければならず、実名の報道をなすべき社会的利益の有無についての判断は特に慎重に行われるべきであり、その点で、本件の実名報道は、著しく配慮にかけるものである。
当連合会は、1987年の第30回人権擁護大会で採択した「人権と報道に関する宣言」や、1999年の第42回人権擁護大会の「報道のあり方と報道被害の防止・救済に関する決議」などを通じ、これまでマスメディアに対し、事件報道に関し、被害者とその家族の名誉・プライバシーなどの人権を侵害しないよう配慮を求める提言をしてきた。
当連合会は、この機会に、重ねて新潮社はもとより、マスメディア全体に対し、報道倫理の確立とこうした人権に対する配慮の著しく欠けた報道がくりかえされないための制度的な工夫を講ずることを強く要望する。
2006年(平成18年)10月24日
日本弁護士連合会
会長 平山 正剛