靖国神社参拝に関する会長談話

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小泉純一郎内閣総理大臣は、公約において表明していたとおり、終戦記念日である本日(8月15日)、広く報道される状況下において、往復に公用車を使用し、内閣総理大臣秘書官を同行させ、内閣総理大臣の肩書で記帳及び献花をして靖国神社に参拝した。このような形で行われた参拝は、内閣総理大臣として行われた公式参拝と評価せざるを得ない。


日本国民は、先の大戦において靖国神社の国家神道化が軍国主義を支える重大な役割を果たし、戦争の惨禍を招いたことを教訓とし、日本国憲法を制定し、平和主義とともに、制度的保障の一つとして政教分離の原則を掲げた。これにより、靖国神社は、国の管理を離れ、それまでの特権を失い、単立の宗教法人となった。


日本国憲法の政教分離原則(憲法20条1項後段、20条3項、89条前段)は、政治と宗教の厳格な分離を定めたものであって、厳しく遵守が求められる。国政の最高責任者である内閣総理大臣が、その地位にあるものとして一宗教法人である靖国神社に公式参拝することは、同神社を援助、助長、促進する効果をもたらすものとして、国の宗教活動の禁止を定めた憲法20条3項の精神に悖ることは明らかである。


内閣総理大臣は、憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負い、政教分離等の原則をうたう日本国憲法を遵守し、さらにその実現に力を尽くすべき義務がある。しかるに、国政の最高責任者である内閣総理大臣が、政教分離原則に反して靖国神社に公式参拝することは、このような憲法上の各義務にも違背するものである。


当連合会は、これまでも、一貫して、内閣総理大臣の靖国神社参拝に関する叙上の憲法上の問題点を指摘し、内閣総理大臣の靖国神社への公式参拝は差し控えられたいとの要請を行なってきたところであるが、本日、小泉内閣総理大臣によって、これが行なわれてしまったことは誠に残念である。


よって、当連合会は、何よりも憲法を擁護すべき立場にある法律家団体として、ここにあらためて内閣総理大臣たる地位にある者が、このような憲法違反が問責される行為を、今後繰り返すことのないよう強く要請する。


2006年(平成18年)8月15日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛