「共謀罪」に関する与党再修正案に対するコメント

2006年5月15日

日本弁護士連合会

 

1 与党再修正案について

                          
与党は5月12日、共謀罪について、与党修正案をさらに「再修正」することを提案した。その主な内容は以下のとおりである。

 

(1)「共謀罪」の適用される団体を「組織的な犯罪集団」と明示した。ただし、「組織的な犯罪集団」の定義は、「その共同の目的が犯罪を実行することにある団体」との従来の定義を変えていない。


(2)修正案において加えられた「犯罪の実行に資する行為が行われた」との要件を「犯罪の実行に必要な準備その他の行為が行われた」と修正した。


(3)「日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限してはならない」「労働組合その他の団体の正当な活動を制限することがあってはならない」旨の文言を加えた。


しかし、(1)に関しては、過去の審議の中で、「共同の目的」とは「団体の結合の基礎となる目的」を指す旨繰り返し政府から答弁されているにもかかわらず、そのとおり条文に反映されていない。また、過去に違法行為を行った事実のない団体が共謀罪の対象とされる危惧も依然として払拭されていない。


(2)に関しては、「その他の行為」にどのような行為が含まれるのか明確でなく、拡大解釈の余地を残している。少なくとも、「その他の行為」は削除するべきである。
                                    
2 いわゆる「越境性」と対象犯罪の限定について


さらに今回の再修正案においても、依然としていわゆる「越境性」は要件とされず、また対象犯罪も「4年以上の懲役・禁錮」となる犯罪のままであり、絞り込まれてはいない。


そもそも今回の法案は、対象犯罪が619にも及ぶ点に国民の危惧があり、対象犯罪を絞り込むことは大きな検討課題である。


政府は、これらの点に関して、条約上の留保ができない旨を従前から述べてきている。しかし、国連越境組織犯罪防止条約の趣旨・目的は、「国境を超える組織犯罪集団による重大な犯罪を防止する」という点にあるので、条約の批准にあたり、留保又は解釈宣言を行った上で、重大犯罪の定義として別の基準を定立することや越境性を要件とすることは、条約の趣旨・目的に反するとは言えず、条約の解釈として十分に成り立ちうるものである。

 

3 条約の審議内容と各国の実施状況の徹底調査を


国民の懸念が著しく高まった今、このような重大な立法について拙速に審議を進めるのではなく、原点に立ち返り、条約の意味内容や解釈を確定する必要がある。


また、119カ国に及ぶとされる批准国における条約の留保と解釈宣言の詳細な内容、各国における重大犯罪の定義などを調査し、その上でこれらの基礎資料を基に、条約の趣旨・目的を損なわず、かつ濫用の危険性を払拭した法案内容にするため、十分に議論して立法すべきである。


この法案が、広い国民の関心と深い懸念を呼んでいることに鑑み、国会審議においては、国際的な協調を図るとともに、人権の制約を最小限に留めるための叡智を集め、国民各層の不安を取り除き、将来に禍根を残すことのないよう、慎重な上にも慎重な審議を重ねるように求めたい。