入管法「改正」法案の徹底した審議を求める会長声明
テロの未然防止などを目的とする出入国管理及び難民認定法改正案が、衆議院で可決され、現在、参議院で審議されている。
テロ防止のための対策が各国の課題であることは当連合会も認識を共有するものである。しかし、いかにテロ対策のためといえども、憲法や国際人権法に保障された人権はおろそかにされてはならず、外国人などの少数者の人権保障を通じて安定した社会を築くこともまた、テロや犯罪を防止する重要な手段であることは、当連合会が昨年12月15日に発表した意見書で述べたとおりである。
本改正案は、日本に入国する全ての外国人(特別永住者、16歳未満の外国人などを除く)に「個人識別情報」の提供を義務付けるものであり、具体的には指紋情報の提供義務化が予定されている。これは、外国人のプライバシー権を侵害し、品位を傷つける取扱いの禁止(国際人権自由権規約7条)に抵触するものである。
次に本改正案は、入国時に取得した生体情報を全て保管してデータベース化し、犯罪捜査や在留管理に利用しようとするものであるが、このことは、外国人の自己情報コントロール権を侵害し、外国人全体があたかも危険な集団であるかのような偏見を生み出すおそれがある。国会審議において与党議員からも、入国時に取得した生体情報は、入国審査完了後は、テロの未然防止の目的を達したものであるから直ちに廃棄すべきであるなどの意見が出されている。
加えて、本改正案を契機に「自動化ゲート」が導入されようとしている。これは、予め提供された指紋情報などを利用して出入国審査の迅速化をはかるとするもので、日本人や特別永住者をも対象とすることを予定しており、このしくみによって提供された生体情報もまた、犯罪捜査その他に利用することが可能となることが審議の中で明らかとなった。自動化ゲートを利用するために生体情報を提供する者は、このような目的外の利用を想定していない。また、今後、自動化ゲートの利用が事実上強制される結果となることが危惧されるなど、指紋情報の管理を通して監視社会を招来する危険性が高められる。
更に本改正案は、退去強制事由を追加し、いわゆるテロ資金提供処罰法所定の犯罪行為、その予備行為又はその実行を容易にする行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当な理由があるとして法務大臣が認定した者について、日本からの退去を強制することができるとするものである。しかし、日本に定住している外国人の生活の本拠を奪う重大な結果を生じさせうるにもかかわらず、認定要件が極めて曖昧かつ広範で、退去強制手続の中で、自己がテロ関係者として疑われた具体的な事情やその根拠が明示されず、十分な不服申立の機会が制度的に担保されないことも審議の中で明らかになった。
当連合会は、このような多くの問題点を持ち、市民生活に重大な影響を与えることが審議の中で明らかになってきた本改正案が、このまま採決に至ることには反対であり、なお徹底した審議を行うよう求めるものである。
2006年(平成18年)5月15日
日本弁護士連合会
会長 平山 正剛