「日野町事件」再審請求棄却決定に関する会長声明

本日、大津地方裁判所は、再審請求人阪原弘氏に係る再審請求事件、いわゆる「日野町事件」について、再審請求を棄却する旨決定した。


本件は、1984(昭和59)年12月、滋賀県蒲生郡日野町で発生した事件で、1988(昭和63)年3月に阪原氏が強盗殺人罪で逮捕され、2000(平成12)年9月の上告棄却決定により無期懲役の判決が確定した。しかし、犯人とされた阪原氏は、取調べ過程で自白をさせられたものの、第一審以来今日まで一貫して無実を叫び続けてきた。


当連合会は、判決確定の翌年より、人権擁護委員会内に日野町事件委員会を設置し、以来本件を支援してきたところである。


本件確定判決は直接の物的証拠はなく、状況証拠も請求人と犯人を結びつけるものではなく、任意性と信用性に疑問のある自白しかないという脆弱な証拠に支えられたものであった。これに対し、弁護団は、再審請求において、数々の新証拠を提出していた。しかし、本日の棄却決定は、これらの新証拠を正しく評価していない。例えば、被害者の殺害態様に関する自白について、新証拠に基づき「客観的な事実との矛盾がある」と認定しながら、3年以上も経過した自白であることや、請求人の知的能力の低さなどを考慮すると自白の信用性に影響を与えないとした。殺害態様は本件の自白のまさに根幹部分であり、ここに客観的事実との矛盾が出た以上、いわゆる「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の鉄則に従うべきであった。


最高裁白鳥決定は、再審における新証拠の明白性判断について、「もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべき」であると判示して、その判断基準については、「『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則が適用されるものと解すべきである」とした。白鳥・財田川決定によって無辜の救済の扉が大きく開かれたのである。


本日の棄却決定は、最高裁白鳥・財田川決定や、これらの決定をふまえた昨年4月の名古屋高裁における、いわゆる「名張毒ぶどう酒事件」、昨年9月の水戸地裁土浦支部における、いわゆる「布川事件」の各再審開始決定などが示した再審理念に反する判断である。


このような再審理念に反する棄却決定に対し、阪原氏は直ちに即時抗告を行うことを決めた。


当連合会は、今後も「日野町事件」の再審開始に向けて、あらゆる努力を惜しまないことをここに表明する。


2006年(平成18年)3月27日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛