横浜事件再審判決に関する会長談話

本日、横浜地方裁判所は、木村亨氏ら5名に関する治安維持法違反事件の再審公判において、免訴判決を言い渡した。


本件は、雑誌編集者であった木村氏らが、国体の変革・私有財産制度の否定を目的とする結社のためにする行為をなしたとして、ポツダム宣言受諾後、治安維持法が廃止されるまでの間に、同法1条・10条違反の罪により処罰されたいわゆる横浜事件に関する再審公判である。2003年4月、横浜地方裁判所は、第3次再審請求審において、再審開始決定を行い、2005年3月、東京高等裁判所は、自白が当時の神奈川県警特別高等課の司法警察官による拷問ないし拷問の影響下にされたものであり、その信用性には顕著な疑いがあるなどとして、検察官による即時抗告を棄却していた。


本判決は、治安維持法違反事件における歴史的な背景事情、木村氏らに対する特高による暴行などの取調べの実態、原判決が下されるまでの審理経過及び19年以上に及ぶ一連の再審請求手続経過などに徴し、無罪判決を言い渡すべきであるという弁護人らの主張が相当の重みをもつことは否定し難いとしながらも、治安維持法が廃止され、木村氏らが大赦を受けている以上、刑の廃止又は大赦のときは免訴の判決を言い渡すべきであるという旧刑訴法の規定を適用せざるを得ないとして、本件の実体審理に踏み込むことなく、免訴判決を行ったものである。


治安維持法のもとで、苛烈な拷問を受け、又は思想信条の自由を侵害され、さらに、いわれなく職を奪われるなどの被害が起きたことは、当連合会も、人権救済申立事件における勧告などによって明らかにしてきたところである。


しかし、横浜事件の被害者を含め、治安維持法下の被害者に対して行われた人権侵害行為への謝罪や、身体を拘束され拷問を受けたことによる肉体的・精神的被害の補償などの救済措置は、戦後60年を経てなお行われていない。


当連合会は、国等に対し、治安維持法下の被害者を救済する措置を早急に行うよう求めるものである。


2006年(平成18年)2月9日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛